MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


私はオリンピック中継を観ている。
寒いのでソファーに電気毛布を敷き、
その上に更に毛布を重ね、
横になってもう一枚、毛布をかぶる。
いやはや、とても温かい。
こんな気持ち良い環境で、氷上の選手たちの
厳しい闘いを観るのである。

私は完全にお気楽おじさんと成り果て、
テレビに向かってぶつぶつと独りごちるのであった。

『フィギア・マジック!?』

それにしても、フィギア・スケートっていうのは、
観れば観るほどマジックと似てるなぁ。

オリンピックと同じように、
マジック界にも世界規模の祭典があってさ。
ただ、4年に1回じゃなくて3年に1回の開催だから、
オリンピックよりちょいと気が短い。

マジックの世界大会でも、
フィギア・スケートと同じように
コンテストがあるんだよ。
採点も技術点と芸術点に分かれててね。
技術も上手くなくちゃダメ、
それでいてやっぱり、
感動的な演技じゃないといけない。
もう、まったくフィギア・スケートと同じなんだよ。

だから、ついついフィギア・スケート見てると
選手の気持ちが分かるような気がする。
本当のところは、ジャンプの違いとか
スケートの上手い下手なんて分からないけど、
選手たちの気持ちだけは分かるような気がするんだよ。
本当に、大変だよ、そりゃもう緊張してさ。

ただ、選手へのインタビューで、
「今日の滑りは、素晴らしかったですねぇ」
なんて言うでしょ。
同じように、おいらたちに、
「今日のステージは、大滑りでしたねぇ」
なんて言われたら最悪だなぁ、なんて思ったりして。

選手が滑り終えて、出来が良くても悪くても
感極まって泣くのがいいなぁ。
思わずもらい泣きだよ。
でも、なんだか羨ましいよ。
マジシャンの場合、あまり泣かないもんなぁ。
おいらはコメディ・マジックだから、
滑りまくって切ない涙を流すことは多いけど、へへへ。

でね、おいらは思うんだよ。
選手たちはリンクに出ると
ずいぶん力んじゃってるなぁって。
あんなに力んで出ちゃダメ、
余計に緊張して身体が固まっちゃうよ。
そう言うと、
「高みの見物の方は、ご意見ご遠慮ください」
なんて怒られたりして。

野球場に行くと、
「おいっ、ピッチャー交代だろう。
 おいおい、ここは代打だよ、アレ、アレを出せ。
 まったく、この監督、野球を知らないよなぁ。
 おいっ、監督、俺の言う通りにしろ」
こんなおっさんがいるよ。
おいらも似たようなもんか。

衣装にも厳しい制限があるんだってね。
衣装の一部がリンクに落ちたりすると
減点されるってね。
マジックのコンテストも同じなんだよ。
タネが落ちたりすると大きく減点される。
ちょっと意味が違うけど。

マジックの場合、時間は8分なんだよ。
フィギアのフリーの約2倍。 
これはきついよ〜、
ウケない時は永遠かと思うくらい長いよ。

フィギアじゃないけど、ジャンプにいるよね。
41歳の選手、レジェンドって呼ばれてて。
それなら、マジック界はレジェンドだらけだよ。
おいらなんかも、
知らないうちにかなりのレジェンドだよ。
どんなレジェンドだか分からないけど。

フィギアのジャンプって、
3回転とか3回転半、男子は4回転だろ。
おいらは最低でも5回転するよ。
いやいや、10回転だって回るよ。
何のことかって?
おいらの代表作のマジックのことだよ。
『あったま・ぐるぐる』、フィギア風に言えば
ダブル・トリプル・ヘッド・スピンていう、
すごい技だよ。
なに、分からない?
そうかぁ、ハーフ・パイプ風に
1260、トゥウエルブ・シックスティなんて言えば
カッコいいのかねぇ。

でもねぇ、やっぱり違うのは、
フィギアの選手の涙の美しさだね。
マジシャン、というか、おじさんの涙は
絶対に美しくないもん。
でも、マジシャンはその場では泣かないよ。
マジシャンは見事に滑ったその夜に、
布団の中でそっと悔し涙を流すのさ。


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2014-03-02-SUN
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