MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『偽装マジシャン』


東京駅で駅弁を買う。
以前は『神戸牛ステーキ弁当』にしようか、
『北海道秋鮭弁当』も美味しそうだ、などと
迷っていた。
「そうだ、昨日のお昼は肉だったから、
 今日は魚の方がいいかな」
そんなことも思案しつつ、店の前を行ったり来たり。
実に楽しく迷っていたものだ。

最近は、ついつい別のことで迷う。
ホテルやレストランの食材偽装のニュースを目にして
以来、駅弁の食材表示が気になってしまうのだ。
「神戸牛って書いてある。
 本当に神戸牛なのだろうか」
「北海道の秋鮭かぁ。
 でも、他の所で獲れた鮭だって、
 秋鮭じゃなくたって、
 おいらは食べても分からないもんなぁ」
楽しい迷いが、苦々しい躊躇になってしまった。

以前、私は『神戸牛』とか『北海道秋鮭』の表示を
特段に気にしていなかった。
むしろ、肉系にするか魚系にするかの方が
迷いどころだった。
それなのに、今は表示ばかりが気にかかる。
偽装なのか誤表示なのかはさておき、
私は疑惑という色眼鏡を外せなくなってしまったのだ。

ふと周りを見ると、隣のおじさんも弁当を手に取り、
じっと表示を眺めている。
きっと、多くの人々が今まで必要のなかった色眼鏡を
かけてしまったに違いない。

それでも弁当を選んで買い求め、新幹線の車内で、
「うんうん、やっぱりこの弁当はうまいや、
 正解です」
心の中でつぶやきつつ、美味しくいただいた。

満腹感に浸りながら、今日のマジック・ショーの
パンフレットを眺め、出演するマジシャンの
プロフィールに目を通す。
『世界マジック大会優勝』、
『米国アトランタ大会で好評を博す』、
『Best Magician Award』
などという文字が並んでいる。

すると、今度はマジシャンの表示が気になりだした。
表示からイメージすると、いずれのマジシャンも
輝かしい受賞歴で、華麗なパフォーマンスを
想起させる。
だが、疑いの眼で読むと、
「これも偽装の類いというか誤表示というか、
 盛り過ぎというか」
様々な疑念が沸き起こり、思わず嘆息するのだった。

世界中のあちらこちらで、多くのマジック大会が
開催されている。
米国だけでも相当な数のマジシャンの団体があり、
数えきれないほどの大会を催している。
門戸は大きく開かれており、
日本から参加するマジシャンも少なくない。
中には厳しい審査をする大会もあるが、
多くは実におおらかな審査っぷりで、
賞も大盤振る舞いだったりするのだ。

日本のマジシャンたちは真剣かつ真面目に挑戦をし、
見事に優勝の栄冠を勝ち取る。
したがって、日本国内にはたくさんの
『マジック世界チャンピオン』、
『No.1マジシャン』、『世界一のマジシャン』が
存在することになる。
それゆえ、世界チャンピオンなのに
日本国内では第6位、
なんてことも起こりうるのだ。

私も以前に、
「次は、インドのカルカッタで開催された
 マジック大会で優勝したすごいマジックです。
 もらった優勝トロフィーは、とってもカルカッタ」
などと、明らかな偽装説明をしていた。
大いに反省せねばならないだろう。

さて、私はこれまで多くの超能力者と称する人物に会い、
その真贋を検証してきた。
「小石さん、そんな夢を壊すようなことは止めなさいよ」
と、苦言を何度もいただいた。
しかし、私が検証を続けているのは、
超能力の存在を確認したいからなのだ。
超能力者と称するニセモノ、その偽装をひっぺがして
排除し、本物の超能力者を見つけ出したいという、
強い思いがある。
夢を壊すのではなく、むしろ夢を見るために
検証作業を続けているのだ。

早くも師走を迎え、街のあちこちにクリスマス・ツリーが
飾られる季節になった。
イルミネーションは、早過ぎる夕暮れに美しく輝いている。
サンタクロースさんを、
「親がサンタ偽装している」
などと言うつもりなどない。
それどころか、
「素晴らしいマジシャンになれるマジックをひとつ、
 プレゼントしてください」
今年もサンタクロースさんにお願いするつもりだ。

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2013-12-08-SUN
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