MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『隣はなにを言う人ぞ』


『タダほど恐いものはないってこと、
 みんな、知らないんじゃない?』


飲み友達が珍しく饒舌になって。
タダメールやタダ通話のサービスを、
普通に使っている人が多くなった。
特に若者たちは、それがないと生活できないほどに
なっているそうな。
今はタダでも、後で高いツケを払わされたりして。


『黙れっ、あんたは面白くない』

あるマジック番組の打ち合わせの席で飛び出した怒声。
構成作家であり、プロデューサーでもあるA氏が声の主。
一喝されたのはマジシャンのB氏。
B氏は、いつも軽口を叩いては
自分で笑うという特技の持ち主だ。
天才肌のA氏にとって、
面白くないということは即、有罪なのだろう。
せめて執行猶予くらいは与えてほしいものだが。


『マジックの部分は放送しないので‥‥』

番組の打ち合わせで、ディレクターが言いました。
本当は、
「マジックの部分は編集しないので‥‥」
の言い間違いでありました。
ビックリしました。


『明日がなんだっていうんだ、
 明日は‥‥明日さ』


ヨーロッパの某都市、
老舗のナイトクラブで観た寸劇の中で、
醜い男が誰にともなく語ったセリフ。
明日なんかどうだっていいという、
自暴自棄のセリフなのだろうか。
それとも、今日の苦しみが
明日の苦しみに替わるだけという絶望感なのか。
いずれにしても、妙に記憶に残るセリフだった。
このセリフがあって暗転、劇は終了。
拍手が沸き起こり、私もつられて拍手をしたが、
このセリフの本当の意味は、未だに分からない。


『俺はトランプのジョーカーのようなもの』

師とも仰ぐマジシャンが、静かに語り出した。
1組のトランプの中に、ジョーカーはたった1枚。
エースだってキングだって、
一組に4人の仲間がいる。
なのに、ジョーカーはたったひとり。
ジョーカーはオールマイティ、
他のどのカードにも変身できてしまう。
絶対的な切り札にもなれる。
だが、ババ抜きというゲームでは
嫌われ者になってしまう。
ジョーカーは時に辛く、孤独なのかもしれない。
はて、僕はトランプに例えると何かなぁと思う。
そりゃぁ、ハートのエースとかダイヤのキング、
なんて言いたいけれど。
実際のところは、クラブの7くらいだろうか。
ちょっと地味だけれど、ラッキーナンバーでもある。


『週一、いや、月イチでもいいから、
 満腹中枢ではなくて
 美味しい中枢を刺激しないとね』


食通の友人が、ご馳走を食べながら
言い訳のようにつぶやいた。
僕も、とりあえず毎日3度3度、何かを食べている。
それはそれで幸せな食生活。
だが、確かに満腹にするだけの食事かもしれない。
人間たるもの、美味しい中枢も
たまには刺激しないとね。


『人を疑うのは面倒だから、
 とりあえず人を信用しちまうのさ。
 まぁ、自分のことも少しは信用しとかないとね、うん。
 つまりさ、疑うとか不安になるって、面倒なんだよ。
 面倒は、後回しにしようってことだよ』


いつも利用され、ダマされてばかりの、
人の良過ぎる先輩のお説教。
よし、僕も面倒なマジックの練習は後回しにしよう。
僕の自己流の芸で、はたしてウケるのか
不安だったけれど、とりあえず自分を
信用してみるとしよう。
いつも、疑いや不安が先回りして心に入ってくる。
でも、疑いや不安なんて、後回しでいいんだ。


『枡に入ったグラスに日本酒を注ぐでしょ。
 グラスに溢れて、枡もいっぱいになるまで。
 あれだと思うんですよ。
 ワインでもウイスキーでも、
 あんな注ぎ方ってないですよね。
 あの、枡にこぼれた分のお酒。
 あれが日本の、おもてなし』


居酒屋の店主がモツ煮込みを出しながらの、うんちく。
なるほどと納得しつつ、僕は口からグラスの酒を
お迎えに行った。

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2013-10-06-SUN
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