MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『やじろべぇ的人生論』


はて、どこで聞いたか読んだか、人は集団を形成すると
2・6・2の割合に分かれるという説があるそうな。
例えば10人の集団がいるとする。
すると、そのうち優秀な人は2人、普通の人が6人、
ダメな人が2人という構成になるというのだ。

不思議なことに、
優秀な人ばかり10人を集めたとしても、
やはり優秀な人が2人、普通の人が6人、
なんだかダメな人が2人になってしまうという説だ。

本当だろうか。
そんな馬鹿なと疑いつつも、
妙に納得してしまう説ではある。

数人で旅をすると、すぐに先頭に立って
他の人を引っ張る、リーダーのような役割の人が現れる。
サブ・リーダーを務めようとする人も出てくる。
その後ろを、
「じゃぁ、付いて行こうか」
と、大多数が後ろに続く。
残りのごく少数が、途中で立ち止まったり大きく
遅れたりして、その度に集団のペースを乱す。

過去を思い返せば、私はそんな経験を何度かしている。
小学校の遠足、中学校の旅行を思い出すと、
いつの間にかリーダーとなる子が出てきて、
その子を支えようとする子が次に続く。
大半のぼんやりした連中は、何の主張もないままに
ただリーダーたちに従う。
その後ろのほんの数人が、道をそれたり遅れたり。

私はいつも集団の後ろにいて、
寄り道ばかりしている子供だった。

「先生、小石くんと田中くんがいません」
「また、あいつらか。
 まったく、またどこかの横道に入ってるんだろう。
 お〜い、小石、田中、どこだぁ」
「先生、あのですね、小さい猫がいました。
 それがね、あっちの方に走って行って・・・」
「小石、いいかぁ、
 今日の遠足は猫を追いかけるのが目的じゃぁないんだよ。
 ほれ、田中も、ちゃんと付いてこなくちゃダメだよ」
私はまぎれもなく、優・普・劣の劣組だったのだ。

いつも集団の後ろから前方の大勢を見ていて、
そのまた前方のリーダー役の子と
サブ・リーダー的な子を、
崇拝するように見つめていたように思う。
私のクラスは、確かに優・普・劣が
2・6・2の割合だったかもしれない。

『人は集団になると2・6・2の割合で
 優・普・劣に分かれて構成される』
という説は、確かに当てはまる事例が多いように
感じられる。
少なくとも、血液型で4種類の人間に分類したりする
占いの類いよりは説得力がありそうではないか。

マジシャンの場合はどうなのだろうか。
大きな声では言えないので小声で言おう。
優秀なマジシャンがごく少数、
大多数の普通のマジシャンが続き、
最後方に残念なマジシャンがぽつり、ぽつり。

ただ、マジシャンの場合は
劣組に所属している人が個性的だったり
愛嬌があったりして、時に優秀なマジシャンより
人気があったりするからやっかいだ。
優秀だから幸福、劣悪だから不幸と
単純に分類できないところが、
人間の面白い一面なのかもしれない。

私なぞ間違いなく劣組マジシャンであるが、
今まで一度だって不幸だと思ったことはない。
不幸どころかその劣っぷりを楽しんですらいるのだ。
だいたい、ぬるいお湯の方が
長くゆったりと浸かっていられるというもの。
才気ほとばしる鮮やかなマジックなぞ、
考えただけでも熱過ぎて落ち着かないではないか。

私の師匠である初代・引田天功だって、
もう少しゆるいマジックをしていれば
今も現役マジシャンでいられたかもしれない。
大爆発するジェットコースターからの大脱出など止めて、
温いお風呂からの脱出とかにしておけば楽だったのに。

何か面白い脱出マジックを考えろと言われて、
「遊園地の、お猿さんが運転手している電車からの
 脱出はどうでしょう」
などと提案し、ひどく怒られたこともあったっけ。

2・6・2の説をある落語家さんに伝えたところ、

「落語家はもっと厳しいんじゃないですかねぇ。
 おそらく0.1・5・4.9くらいの割合じゃないですか。

 うわずみの、そのまたうわずみのように
 ごくわずかに、優秀な落語家、師匠がいますよね。
 後はまぁまぁが、漬かり過ぎた漬け物のように
 大勢いて(笑)。
 その下に、着物を着て座布団に座っている、
 ただの退屈な人がぞろぞろ、ですかねぇ」

芸の世界は、2・6・2というより
ピラミッド型に近いのかもしれない。

ピラミッドのてっぺんに立つ人が、
時に不幸に思えてしまうのはなぜだろう。
同様に、テレビで見る宝くじの高額当選者の行く末を
なぜか案じてしまう。
やはり、幸・普・不幸の割合も2・6・2くらいの方が
安定しているように思えてしまう。

「人生はやじろべぇのようなものだよ。
 2・6・2でバランスよく、
 危なっかしく揺れてるけれど、
 どっこい倒れたりはしないというのがさ、理想だよね」

黙って私の説を聞いていた悪友が急に、

「なるほどねぇ、そうなると人だけじゃなくてモノ、
 小石、お前のエッセイもだいぶ書き続けているよなぁ。
 それも2・6・2の割合ってことか。
 面白いのが2、普通が6、つまらないのが2・・・」

悪友よ、私のこのエッセイはピラミッド型なのだよ。
つまらないのがどっさり、どっしりと大量に
下を支えているから、安定感は抜群なのさ。

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2013-06-16-SUN
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