MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

今年もあちこち行きました。
まるで上がりの見えない双六のように、
サイコロの目に従うように、旅をしてきました。
そんな2012年を振り返っての今週でございます。


『2012年、日本の旅』

1月

中野にある銭湯を訪れた。
都内の中野、旅というには近過ぎるかもしれない。
だが、なかなか銭湯に行く機会は少なくなってしまい、
銭湯を訪れるのにも旅のようなおもむきを抱いたのだ。
銭湯には行ったが、残念ながら湯船には入っていない。
ある番組のロケ現場が、銭湯だったのだ。

銭湯のオーナーがプロのマジシャンで、
ひと風呂浴びた客にマジックを見せて喜ばれているという。
そんな脱衣所の珍しい光景を収録させてもらったのだ。
常連客らしいおじさんが、

「いやぁ、目の前で見てるんだけど、不思議だねぇ。
 あんまり不思議なもんだから、
 ずぅ〜っと見てると湯冷めしてね。
 また風呂に入るんだよ、ははは」


2月

山口県山陽小野田市にある、山陽オートレース場に行った。
オートレース場での仕事は初めてかもしれない。
巨大なリンクを、ものすごいエンジン音を響かせて
バイクが疾走する。
最終レースは、リンクの中央にある建物の中から見た。
視線がリンクと同じで、目の前をライダーの足元が
猛スピードで通り過ぎる。

ライダーの靴は金属製のカバーで覆われている。
その金属をリンクにこすりつけるほど
バイクを傾けて走るのだ。
時々横転事故もある、危険を伴うレースだ。

私はふと思う。

「なぜ、彼らはプロのオート・レーサーなどに
 なったのだろう。
 よりによって、こんな難しくて危険そうな職業を
 選んだのか」

だが、レーサーたちに質問をすれば、
彼らもすぐさま聞き返すに違いない。

「あんたたちは、どうしてまた、
 マジシャンなんかになったんだい?」


3月

栃木県真岡(もうか)市に行った。
ある企業の創立記念パーティが開催され、
私たちが余興のゲストに呼ばれたのだ。
と、ここまでは珍しくもない展開だが、
呼んでくれた人が若い女性で、
ネットで検索して事務所に直接電話してくれたのだという。

普通は出入りのイベント業者に依頼し、
業者が我々の仕事を扱っている業者を捜して
という過程を経るのだが、
とうとうネットの時代になったのかなぁと、
しばし感慨に耽る私であった。


4月

大阪、リーガロイヤルホテルに行った。
大阪の仕事は、ほとんどが日帰りである。
今回も午後の新幹線で新大阪に、
駅からタクシーでホテルに向かった。
ある企業のパーティで、大きな会場は
人、人、人で埋まっていた。
ウケるのだろうか、というのは杞憂で、
ずいぶんとノリの良いお客さまであった。

以前は、よしもと興業に所属していると思われたほど、
大阪の仕事が多かった。
関西で生まれ育ち、よしもと興業に所属していたら、
いったいどんな人生になっていたのだろうと、
帰りの新幹線の暗い車窓を眺めながら
答えの出るはずのない夢想は続く。


5月

長野県須坂市のお寺に行った。
今回で2度目の来訪である。
ここの住職は、私のマジックよりはるかに面白いから困る。
檀家の皆さんの前で説法を説くのだが、時々人の名前や
経歴を間違ったりする。
しかし、一切めげず、

「はっはっは、知らぬが仏じゃ。はっはっは」

今回も、マイクを使わないで地声でぼそぼそと話し続ける。
当然ながら客には聴こえず、反応が鈍い。
すると住職、

「今日の客は耳が遠いのかのう」


6月

初めて、三宅島を訪れた。
三宅島の噴火で、あちこちに巨大な溶岩の隆起が見られる。
一時は島民のすべてが島外に避難、
様々に大変な苦労があったと聞く。
にもかかわらず、島の人たちの表情は明るい。

朝昼晩、魚料理だ。
刺身で、焼き魚で、煮魚にして。
それがまた、美味い。
地元で採れる貝で、確か爪貝といっていたと思うけれど、
それでとる出汁の味噌汁がなんとも美味かった。
こういう美味しいものを食べているから、
皆さん笑顔なのだろうかと思ったくらい、美味しかった。


7月

埼玉県新座市
どのような仕事だったか、覚えていない。
ということは、ごく普通の仕事環境だったのだろう。
芸人はすごく良かった仕事も覚えているし、
ひどい目にあった仕事も覚えているものだ。

大きな鞄を抱えて在来線で新座市に向かった。
新幹線とか飛行機の旅も旅らしいけれど、
在来線で行く旅の方がなぜか旅をしている気分になる。
いつもの街の風景なのに、ちょっと違う風景。
仕事でなければまず訪れることのない、
知らない駅の風景。

駅前にはファーストフード店や牛丼店があり、
都内の駅前と見た目は変わらない。
でも、行き交う人たちの歩くスピードが
明らかにゆっくりなのだ。
まるで、
「ゆっくり生きるが、勝ちさ」
とでも言うように。


8月

北海道の天売島を訪れた。
はて、何時間かかっただろうか。
飛行機に電車に、船にも揺られてようやく辿り着いた。

夕方になると、風が冷たくなる。
バーベキューの火にあたっても、なお背中が冷えてくる。
真夏に寒さを味わえる贅沢。

もちろん、ウニ、カニなどが食べ放題。
本当はひとり10個までとか聞いたような気もするのだが、
私は数えることも忘れて、食べ続けました。
すみませんでした。


9月

静岡県下田市の敬老会に参加した。
観客は75歳以上の皆さんだ。
確か、以前は65歳以上だったように記憶している。
いつの間に10歳も年齢が上がったのだろうか。

数年前は、懐かしい演歌歌手と一緒だったりした。
もう、歌手と観客のどっちが年上だか分からない、
まるで高齢化社会の縮図のようなショーだった。

ふと思う。
私たちが高齢者になった時、
敬老会にはどんなタレントさん、
歌手が来てくれるのだろうか。


10月

富山県高岡市で講演をした。
テーマは『騙されないための脳活』であった。
この仕事は、高岡市在住の弟子、
アレマー玉井の紹介であった。
アレマー玉井はラジオやテレビの仕事を多くこなし、
地元では馴染みのタレントになっている。

楽屋で、アレマー玉井が開発したという、
体のあちこちに電極を貼付けて
トランプを当てるマジックを体験させてもらった。
急に体に電気ショックが走るようなもので、

「マジック道具にも健康グッズにもなる自信作です」

アレマー玉井は胸を張るが、師匠として、

「こいつはダメだ」

と却下した。


11月

福岡県築上郡上毛町に行った。
「じょうもうちょう? うわげまち?」
と悩んでいたら、地元の方が、
「こうげまち、です」
と教えてくれた。
まだまだ、知らない町ってあるんだなぁ。


12月

岐阜県郡上八幡の小学校を訪れた。
前日からの雪がかなり降り積もっていた。
会場の体育館には大きなストーブが焚かれているのだが、
やはり寒かった。

それなのに、子供たちは体ごと驚いてワ〜ワ〜。
ステージから見ると、
みんなでおしくらまんじゅうをしているように見える。
すごく暖かそうで、私も子供たちの中に
飛び込みたくなった。

続いて訪れた飛騨高山も雪、雪、雪だった。
夜になって、温泉に浸かりながら
降りしきる雪を眺めた。

今年も色々あって、あちこちを旅した。
そんなひとつひとつの出来事が、
白い雪の結晶になって揺れ落ちてゆくようだ。

旅という双六の上がりは、暮れになっても見えてこない。
でも、それでもいい。
また来年、新しい気持ちで旅に出よう。

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2012-12-30-SUN
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