MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『スラリと長いよ』


私の身長は164cmくらいだ。
長いこと身長を測ってないので、正確には分からない。
だが、170cm以下であるのは確かだ。

それは重々承知しているのだが、未だに、
「本日は、マジシャンのパルト小石さんに
 お話を伺います。
 小石さんは、ナポレオンズの背の小さい方の方です」
などと紹介されることが多い。

くどいようだが、私を紹介していただくならば、
「ナポレオンズの2番目に背の高い方の方です」
というように表現を代えてほしいものだ。
ついでに言うならば、
「マジックはできない方」
とか、
「しゃべっているだけの」
というような紹介は一切止めてほしいと思う。

「本日は、マジシャンのナポレオンズの、
 2番目に背の高い、
 マジックはたしなむ程度ながら、
 指先よりも口先のテクニックを誇る
 パルト小石さんです」
というような紹介をしていただけないだろうか。

164cmは、江戸時代ならば
長身の部類に入ると聞いたが、
現代ではもはや長身ではない。
だが、私はそれを不自由と思ったことはない。
それどころか、小さい方が便利だと思っているくらいだ。
例えば、船の仕事に行ったりすることがある。
泊まるのは、決して広くはない船室だ。
時には、上下の棚になっているような
小さく狭いベッドで眠ることもある。
そんな時、小柄の方が快適に決まっているではないか。
大柄な人はあちこちに身体をぶつけたり、足を折り曲げて
眠らなければならないだろう。

仕事先の控え室でも、長めのソファーでもあれば
ベッド代わりに横になることもできたりする。
早起きした時など、控え室のソファーで仮眠もできるのだ。

数年前のこと、大勢の女子バレー選手と
同じ飛行機に乗り合わせたことがある。
彼女たちは、天井にさえ頭をぶつけそうなくらいの長身を
こごめて通路を歩いていた。
席に着いても、相当に窮屈そうであった。
彼女たちは、狭い席でも余裕の私を見て
心底羨ましそうにしていた(と、私は感じたのだが)。

服に関しても、小柄で困ったことはない。
不思議なくらいに、
私の体型にピッタリの服を売っている店が
あちこちに存在しているのだ。
そんな店でジャケットを試着したりすると、
「むふふふ、私にピッタリだ。
 袖の長さも誂えたようだし、どこも直す必要がない。
 いやはや、こりゃいいなぁ」

ただ、そんな私のお気に入りの店でも、
パンツ、ズボンは長さを調節せねばならない。
なんせ、私は、
「スラ〜リと長く伸びた胴」
の持ち主なのだ。
試着するには、ズボンの裾を
大幅に折り曲げなければならない。
時には30cm近く切らなければならない場合だってある。

以前のこと、デパートでズボンの裾を
これでもかとまくり上げていると、
見るからに長い足の持ち主の若者が、
「あ、いや、裾はこのまんまでいいや。
 はい、このまま履いてっちゃってもいいっすかぁ」
などと隣の試着ルームで話していたことがある。
私は、一生こんな素敵なセリフを言うことはないだろう。
言えるとしたら短パンを試着する時くらいだ。

テレビを見た人が私と会うと、
「あれぇ、意外と普通ですねぇ。
 もっと小さい人かと思いました」
そうなのだ。
テレビはすべてを映しているように見えて、実は印象、
イメージを映しているだけなのかもしれない。

余談になるが、映画やテレビ業界で、
「それ、ちょっと『セッシュ』しといて」
というような専門用語を耳にする。
この『セッシュ』とは、ハリウッドで活躍した
国際的スター俳優の早川雪州氏(1886〜1973)の名前が
由来であるという。
映画のラブ・シーンなどで、
相手女優より背を高く見せるために
箱を置き、その上に雪州氏を立たせて撮影をしていた。
それゆえ、高く見せる行為を
『セッシュ』すると言うようになったらしい。

私も、今後テレビに出演の際には
大いに『セッシュ』してもらいたいものだ。
そうすれば、
「小石さんは、ナポレオンズの背の小さい方です」
などという紹介はされなくなるだろう。

しかし、やはり普通に、私のままに映してもらうのが
最良だとも思う。
なにせ、例え少し間違ったイメージにせよ、
長年に渡ってのものだ。
それはそれで、もうひとりの私なのかもしれない。
それに、背の小さい方でも
マジックが苦手でもしゃべっているだけにしても、
なんとか楽しんで続けられてきたのだから。

皆さん、私は『セッシュ』すれば長身の部類です。
胴と比べなければ足は充分に長いです。
他のマジシャンと比較しなければ、おそらく日本一、否、
世界一のマジシャンです。
今後ともどうぞよろしくお願いします。

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2012-10-07-SUN
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