MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『目指せ、クンロク』


クンロクとは、9勝6敗を意味する。
大相撲の、どうにも不甲斐ない成績の大関のことを
クンロク大関と呼ぶ。
相撲の世界では決して褒め言葉ではないのだが、
普通の人生ならばクンロクは幸運な方だと思う。

勝ち続ける人生も精神的にきついだろうし、
負けてばかりも切ないものだ。
ならば、勝ったり負けたりしながら
少しだけ浮いている、私はそんな人生を目指している。


『真夜中の災難』

グラスを倒してキイボードに
赤ワインをぶちまけてしまった。
キイボードをひっくり返したら、赤ワインがボトボト。
慌ててタオルで拭き、ドライヤーの冷風を当てて乾かした。

しばらくして、恐るおそるキイボードを操作してみた。
どうやらキイボードは下戸のようで、
すっかり酔いが回ってしまっている。
普通の文章は打てるのに、
ハイフンとか数字の8とかは反応がないのだ。

パソコンをしながらワインを飲もうと思ったのが
失敗の元だ。
それに、以前は透明なカバーをしていたのだが、
汚れたので捨ててそのままにしていた。
カバーさえしてあれば、キイボードにワインを
飲ませることもなかったろうに。

あれこれ反省するも、もはや手遅れだ。
翌日、新しいキイボードを買い、さっそく使ってみた。
ところが、なぜかところどころキイがずれる。
カッコを押すと数字のゼロが表示され、
波(〜)を押すとプラス(+)が
表示されてしまうではないか。
電話で問い合わせてみると、
「あぁ、パソコンのバージョンが古いんですね。
 キイボードは今のバージョンしか扱ってないんです」

あぁ、それにしても、ワインをデスクで飲まなければ
よかったなぁと、いつまでもグズグズ反省。
倒したのがグラスで、黒星。


『マジック教室』

月イチで主催している『マジック教えまSHOW』の
生徒さんが、娘さんの20歳の誕生日に
マジックを披露したと聞いた。
「いやぁ、娘が喜んでくれてね。
 父親の威厳を取り戻しました」
私の教えたマジックに威厳を取り戻す効果があるとは
思えないけれど、良かったなぁと思う。
威厳を取り戻して、白星。


『マジック教室・その2』

『マジック教えまSHOW』を受講されている方から
仕事の依頼があった。
息子さんの中学校で講演をしてほしいとのこと。
謹んでお受けし、私は中学校に向かった。

会場はまだ若い母親たちの熱気で満ちていた。
午前10時から12時までたっぷりと語り、
少しだけマジックの実演をした。
「若い女性ばかりですねぇ、場内はまるでお花畑のよう。
 実は昨日も講演がありました。
 お客さまは平均70歳くらいの女性ばかりで、
 場内はまるでドライフラワーのようでした」
不謹慎なジョークも、大いに笑っていただけました。
言ったもん勝ちの、白星。


『マジック鑑定』

「モデルのGがトランプのマジックをやってまして。
 プロの目で評価していただけませんか?」
ふむふむ、いいでしょう引き受けましょうと出かけた。

G君は、とても可愛い男の子だった。
大きな瞳を輝かせて、
ちょっと恥ずかしそうにマジックを始めた。
「小学生の6年くらいだったかなぁ。
 なんか、マジックが流行ったんですよ。
 それで、あれこれ覚えて・・・」

マジックもすごいが、トークが面白い。
すべてオリジナル、自分で演出も考えたという。
まさに鬼に金棒、モデルにマジックではないか。
甘いルックスで繰り広げるトランプ・マジックの
素敵さ不思議さ。
私は彼のマジックのトリックがひとつも分からず、
「ねぇ、どうやってんの?」
思わず質問をしてしまった。
ルックスの違いで、黒星。


『新ネタ』

番組で新ネタをやることになった。
久々に面白いネタだとは思うものの、
実際に観客の前でやってみないと
ウケるかどうか分からない。
そこで、ある高座で新ネタを演じてみた。
思っていた以上に、ウケた。
もう、場内は大爆笑。
手を変え品を変え、白星。


『新ネタ・その2』

新ネタは、バカウケと言ってもよいくらいの大爆笑。
良かった、ウケたと楽屋に戻った。
しかし、衣装を着替えつつ高座を振り返ってみると、
今度は急に心配になってきた。
我々の前に出た芸人さんたちも、ウケていた。
「パンツ破けたよ」
「マタかい」
そんなギャグにも大爆笑する観客だった。

ひょっとすると、
今日の大ウケは参考にならないのではないか。
「今日のお客は良過ぎるかも。
 また明日も試してみようよ」
お客様が良過ぎるのも、芸人には時として不幸なもの。
芸の道はなかなかに難しい。
勝ったと思いきや物言いがついて、黒星。


『取材』

インタビューを受けた。
座右の銘を聞かれ、とっさに、
「僕の名前、至誠、ですかねぇ」
と、答えた。

私の本名は、小石至誠である。
至誠、誠に至る、至上の誠。
マジックで人を騙し続けているが、ウソをつくのは
苦手、ヘタな私である。
名前が至誠とあっては、どうにもウソがつき辛い。
立派な名前をつけてもらったと、
遅まきながら親に感謝している。
ありがたいことこの上なしの、白星。


『名前・その2』

「あんた、本名は至誠だよなぁ。
 あはははは、典型的な名前負けだねぇ」
そういうご意見をいただくことも多々あり。
マジシャンは信用の薄い職業でございます。
再び物言いがついて、黒星。


ここまで、4勝4敗の成績である。
クンロク、9勝6敗という成績を残すためには、
あとを5勝2敗で行かなければならない。
クンロクといえど、ハードルは決して低くないのだ。

千秋楽は、まだまだ遠い先のようだ。
さて、今日もなんとか勝ち星を目指して出かけるとしよう。

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2012-07-15-SUN
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