MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『続・私を三宅島に連れてって』


ウグイスの鳴き声で目が覚めた。
三宅島にはウグイスが多く生息しているという。
「ホ〜、ホケキョ、ケキョケキョケキョ、
 ホ〜ホケキョ」
という鳴き声で目が覚めるなんて
実に贅沢だなぁと思うと同時に、
このウグイスの鳴き声は猫八先生、
小猫さんが鳴いているのではないかと疑う。

今日も1階の食堂へいそいそと向かう。
刺身を醤油に浸け、ごはんに乗っける。
刺身をごはんごと持ち上げて、
握り寿司のような形にして口に運ぶ。
温かいごはんと冷たい刺身が口の中で混ざり合う。
あらためて、ごはん、刺身、醤油は美味しいと
唸る。
亀の手という貝の出汁が利いたみそ汁をすする。
なんだか懐かしい美味さに、
ごはんもみそ汁もお代わりをする。

あいにくの雨になったが、
皆しっかり雨具を着てバードウオッチングに出発。
大路池という淡水湖の周辺の森で、
ウグイスの鳴き声に耳を澄ます。
猫八先生、小猫さんがウグイスを鳴くと、
本物のウグイスが鳴き返してくる。
猫八先生、小猫さん、H教授は何度も
三宅島のバードウオッチングに参加している。
私だけが初めてのバードウオッチング体験者で、
どんな鳥も見逃すまいと双眼鏡を握りしめる。
すると、大きな鳥が飛び立った。

「あっ、大きな鳥を発見」

私は思わず叫ぶのだが、皆声を揃えて、

「小石さん、あれはカラス」

小さな鳥を見つけて、

「あっ、今度は小さな鳥を発見」

「小石さん、あれはスズメ」

以前に離島観光ブームがあったという。
三宅島も一時は観光客が押し寄せて、
大いに賑わったらしい。
だが、三宅島に暮らす人々の多くは、
ブームの再来を望んではいないようだ。
やはり、観光客の誘致のためには
開発をしなければならない。
今ここにある、見渡す限りの自然を
いじらなければならなくなる。
それだけは、島の誰も望んではいないのだ。

ホオジロ、アカコッコ、ホトトギスなどが
鳴いている。
ツバメ、アマツバメが優美な姿で飛び交っている。
数が少なく、なかなか見ることができない
カラスバトは姿を現してくれるのだろうか。

「カラスバトは、見られるといいねぇ。
 いやぁ、美しい鳥ですよ」

午後、島の温泉に向かう。
大きなガラス窓の向こうは海、御蔵島が見える。
お湯は赤く濁っていて、とても塩っぱい。
ちょっと温めの露天にも入る。
まるで温かい海に浸っているようだ。
温泉も海の一部、自然の一部だと感じる。

夕食後、レンジャーの皆さんと飲み会をした。
三宅島は、20年の周期で
噴火を繰り返しているのだという。

「100年ぶりに噴火して、
 その後は20年周期になっているんですよね。
 今は噴火の予兆もまぁまぁ分かるし、
 対応もちゃんとできてるんで、みんな、
 そんなに深刻に考えてないんですけどね。
 でも、歳、年代によって考えが違うみたいすね。
 若い世代は、噴火があったら
 いったん島を離れて様子を見るとか考えてるし、
 老人たちは、島を離れず
 どこかで暮らし続けたいとかね。
 どうしても、島がいいんでしょうねぇ」

若いレンジャーさんたちは、
あくまで明るい笑顔で話してくれる。
彼らを見ていると、噴火さえも
かけがえのない故郷の
自然として抱き止めているように思える。

三宅島には、飛行機でも来られる。
1日1便、全日空機が就航している。
ただ、島の天候に影響され、
飛ぶ確率はおよそ30%だとか。
明日は飛行機で羽田へ戻る予定なのだが、

「いやぁ、飛行機は飛ばないような気がします。
 船はなんとか出ると思いますが、
 天気が悪くなると・・・」

船も就航する確率が80%ほどだとか。
島の天気、自然は当然ながら気まぐれなのだ。

あした葉で薫製したムロアジを焼いたのが
出てきた。
身をほぐして食べる。
刺身、煮魚、焼き魚、天ぷらにして魚を食べる。
ビールに合い過ぎて、酔っ払う。

ベッドに入り、アマツバメの飛ぶ様を
思い出しながら眠りについた。

今日もしっかり朝ごはんを食べた。
いよいよ、午前10時から
『江戸家猫八&小猫とパルト小石の
 動物ものまね&マジックショー!』の日がやってきた。
役場の横の体育館を改造した会場に向かう。

小猫さんの三宅島観光大使就任式が執り行われ、
続いてショーの開演となった。
まずは私のマジックショー。
持ち時間は20分、3つほどマジックをやったら
時間が過ぎてしまった。
慌てて『あったま・ぐるぐる』を披露した。
猫八、小猫の親子ものまねショーがあり、
最後は3人のものまねとマジックの
コラボショーとなった。

私はショーの司会進行を務める。

「さぁ、今ひとつの動物をお客さんが選びました。
 猫八先生、当ててくだサイ」

アイマスクをした猫八先生が答える。

「分かりました。それは、サイですね」

「では、今度の動物は何でしょう?
 お答えをどうゾウ」

同じくアイマスクの小猫さんが答える。

「分かりました。ゾウ、ですね」

「いよいよ、3人目のお客さまが
 動物を選びました。これを一切見ないで、
 ふたりが当ててシマウマ」

猫八先生、小猫さんが答える。

「ふむふむ、それは、シマウマです」

島の人たちの反応はとても温かい。
終演後も、皆さんと記念撮影が続いた。

やはり飛行機は飛ばず、
車で桟橋まで送ってもらった。
空がだんだんと明るくなり、青空が見えてきた。
待合室から、遠く船が見える。
もうすぐ船が桟橋に着く。
それまでの短い間にも、島の女性たちとH教授が
なにやら相談をしている。

思った以上の観光客の数、外国人も多い。
我々も、船までの長い行列に加わった。
島で出会った人たちのほとんどが、
桟橋に駆けつけてくれたようだ。
船に乗り、混雑しているデッキを抜けて
最後尾に向かう。
桟橋の人たちが手を振っている。
猫八先生がつぶやく。

「これだから、
 また島に戻りたくなっちゃうんだよなぁ」

人の姿が小さくなっても、
まだ手を振ってくれている。
私も手を振りながら、

「次は、長靴の良いのが必要、
 それと双眼鏡の良いのも買わなくっちゃ。
 後は・・・」

早くも次の、2度目の三宅島への旅支度を
練っていた。

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2012-07-08-SUN
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