MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『秋の日記』

月曜日

どういう訳か、救急医療学会・学術集会の
前夜祭に呼ばれた。
事前の打ち合わせで、

「お客様はお医者さんばかりですよね。
 それなら安心して危険なマジック、
 例えば首に剣を刺すとか腕を切る
 ギロチン・マジックなんかが良いですよね」

という私の冗談が、意外にもすんなり採用されてしまった。

女性のお客様をステージに上げて、首に剣を刺した。
マジックはなんとか成功したが、
実はこの女性も大変に偉い先生であると後に教えられ、
私の首の方が危なかったことを知る。
最後のマジックでステージが暗転となり、
もう1度点灯すると会長が立っているという
リレーのような趣向も成功、
やれやれとステージ袖に下がった。

その後の会長のスピーチがすごかった。
なんと、何人ものご来賓の方々の肩書きから名前まで
完全に記憶されていて、よどみなくご紹介されたのだ。
私は驚愕して、その記憶法のタネを聞いてみた。

「座席表を見て覚えただけですよ。
 ステージからは逆光で
 テーブルも人も見えなかったけれど、
 頭の中にイメージしてますからね」

算盤の有段者が、頭の中に算盤を浮かべて
暗算をするようなものなのだろうか。
私のマジックは会長の記憶術の前に完敗なのであった。
だが、危険なマジックで救急医療を必要とする患者も
出さなかったことで、善しとしよう。


火曜日

3Dゲーム機へのマジック配信が、
半年ほど続いている。
今日は、もう何回目かの収録日だ。
スタジオに入り、1日で14本ほど収録をする。
収録を終えると、外はすっかり暮れている。

「今回の収録で、
 もう 100ネタくらいはやってますよ。
 さすが質より量のナポさん、
 まだまだネタはありますよね」

マジックのネタは、私の頭の中のネタ壷に入っている。
思わず頭の中の壷を覗き込むと、
なんだか底が見えるような。


水曜日

ジャズ・ライブのお誘いがあり、新宿に出かけた。
今回は、役者さんが歌うのだという。
いつもながら、役者さんはすごいと思った。
なんせ、アメリカ人ジャズ・シンガーになり切って、
デタラメの英語トークを交えながら
スタンダードな曲を大爆笑の歌詞に変えて
日本語で歌うのだ。

時々、役者さんにマジック指導をしたりする。
役者さんはマジシャン以上にマジシャンになってしまう。
伝説のマジシャン、ロベール・ウーダンは語る。
「マジシャンは、マジシャンを演じる役者でなければ
 ならない」
日本にも、マジシャンを演じているマジシャンも
いるのだが、
誰もがカッコいいマジシャンを演じているのは
無理があると思う。


木曜日

急に寒くなったので、慌てて冬物を出した。
そろそろ、ステージ衣装も冬物にしなければならない。
昨年までは、冬になると夏のステージ衣装で、
夏になると冬のステージ衣装だった。
なぜなら、これまで夏は冷房で寒く、
冬は暖房で暑かったのだ。

ところが、今年は節電の夏であった。
冷房はどこも控えめになっていて、
夏には夏の衣装でちょうどよかったのだ。
今年の冬も暖房控えめに違いない。
ゆえに、ステージ衣装も冬物でいいと思う。
やっと、普通になったということだろうか。


金曜日

『缶詰王子のトーク・ライブ』を見に行った。
缶詰王子は石巻で被災し、東京に避難してきている。
彼は、津波で流された缶詰を東京に持ってきて
紹介するという事業を続けてきた。
ちょいとイケメンなので、多くの女性が、
「素敵な方だわ、彼こそわたしの缶詰王子」
と呼び、いつしか定着したらしい。

私はトークを聞きながら、サバ缶を開けた。
身を食べた後、その汁に豆腐とネギを入れ、
もう一度煮込んでもらった。
これが、実に旨いのだ。
あまりの旨さに、
「これ、旨いねぇ!」
と叫んでしまい、トークを中断させてしまった。
「缶詰王子、ごめんなさい」
マジック王子より。


土曜日

朝5時に起きた。
品川から新幹線に乗って新神戸へと向かった。
新神戸駅から車で40分ほど走ると、播磨に着いた。
会場となる工場は宏大な敷地で、
控え室から特設ステージまでも車で移動するのだった。
私はステージを下見し、控え室まで歩いて帰ることにした。
健康のため、仕事先でもウオーキングしたいのだ。
だが、途中で道が分からなくなった。
似たような建物があちこちに点在していて、どれが控え室の
ある建物かまるで分からないのだ。
「すいません、この辺に控え室はありませんか?」
誰かに尋ねようと思うのだが、車ばかりが走っていて
人影などないのだった。
私は携帯でアシスタントに聞いた。
「ねぇ、オレって、今、どこにいる?」


日曜日

青山にあるスタジオに行った。
今日は、魔女軍団スティファニーの皆さんとの収録なのだ。
大勢の美しい、あるいは可愛い魔女たちが、
きらびやかな衣装でマジックを演じるのだ。
男性スタッフたちは、いつもの収録と違って
興奮気味であった。
私も、魔女たちを紹介する役割を
ウキウキとこなしていった。
彼女たちの演技にナレーションも入れた。

全ての収録が終わり、
魔女たちはたくさんのマジック道具とともに
カボチャの馬車に乗って走り去った。
(注・あくまでもイメージ)

このページへの感想などは、メールの表題に
「マジックを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2011-10-30-SUN
BACK
戻る