MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『ことのは』

海外で活躍している先輩マジシャン、
S氏とアメリカで会えたのは1983年のこと。
バーボンのロックをあおりながら、彼がつぶやいた。
「景気のいい国を回っていれば、
 不景気とは無縁なんだよ」

私は、
「そうかぁ、なるほど」
と、大いに感心したものだった。
その後、日本はしばらく好景気が続いて、
私は変わらず日本で働いてきた。
S氏は今頃、どこの景気のいい国にいるのだろうか。

「人は外見じゃねぇど。人は、見た目だ」
時々ご一緒になる二人組コントの中のセリフ。
お客さんが爆笑して、私はなぜか嬉しくなる。

初めてテレビに出演した番組の放送日、
所属していた事務所の社長が、
「初出演だねぇ。
 せっかくだからオレの家で一緒に観るかい?」
皆で妙に緊張しながらテレビ画面を見つめていると、
社長の子供がいきなり
チャンネルを変えようとしたではないか。
「チャンネル変えちゃダメだよ。
 視聴率が下がるじゃないか」
社長が真顔で子供を叱った。
私はその言葉に驚くと同時に落胆した。
しばらくして、私はこの芸能事務所を出た。

「芸ってぇのは、ゼロか100かなんだよ。
 ただ、ゼロでも面白いっていわれることもあるし、
 100でもつまらないって言われることもある。
 嫌んなるぜ」
落語家の師匠が楽屋で語った言葉。
小学校や中学校では100点取ったこともあるけれど、
社会に出てからは100点なんて取れやしない。
マジックで100点も夢のまた夢。
嫌んなるぜ。

ご近所をぶらぶらと散歩していると、
とある店先に札があり
『区内町御用達』と書かれていた。
なるほど、なるほど。
最近、ご近所のレストランで
マジック・ライブをやらせていただいている。
美味しいワインと料理とともに、
マジックを楽しんでもらったり
簡単なタネを習ってもらっている。
つまりは、私も立派な
『区内町御用達』マジシャンなのである。

「パスタも人も、アルデンテがいい」
パスタ専門店店主の言葉。
細く柔らかくても、芯がちゃんとなければいけません。

渋谷に、高そうな絨毯を売っている店がある。
店の入り口に、
『どんな傷も直すことができます』
と書いてある。
店先に出してあるワゴンにも絨毯が積まれていて、
『セールス品 少々キズあり』
と書かれている。
傷を直して正規の値段で売ればいいのにと、
私は店の前を通る度に思う。

駅に向かう途中の路地に、
『駐車しないでください。大型可』
と書かれた謎の白い厚紙がぶら下がっている。
確かに、こんな狭いところに駐車されたら迷惑千万だ。
だが、『大型可』というのが不可解である。
「小さな車は停めないでください。でも、大型は大丈夫」
という意味にしか読めないではないか。
もっとも、そもそも大型車は入れないほどの狭い路地ゆえ、
『大型可』と書いてあってもなんの問題もないだろう。
ゆえに、今日も厚紙はあの路地にぶら下がっているのだ。

「あいつは馬鹿の永久欠番だよ」
プロデューサーが、
走り去るスタッフの背中を目で追いながらつぶやいた。
私は馬鹿の3割バッター?

芸人さんと一緒にラーメンを食べた。
店主が、頼んでいない餃子を持ってきて、
「いつも見てるよ。オレ、ファンなんだよ」
「お金はいいよぉ。一回くらい、ご馳走したいんだよ」
店を出ると、芸人さんが小さな声で、
「本当はさぁ、
 食えなくなった時に食わしてほしいんだよ」
そうなのです。
落ちぶれた時にこそ、
「ファンだよ。ご馳走するよ」
と言ってほしいのです。

「同い年ばかりで弦楽四重奏やってるんだけどね、
 四重じゃなくて
 あたしたちはもう弦楽60歳よ、ふふふふふ」
どうりで音色が艶やかで‥‥。

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2011-10-16-SUN
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