MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『子供LIFE』


小学3年生くらいだろうか、
子供が携帯で何やら話し込んでいる。

「まだ、いいだろ。
 今、よっちゃんたちと
 遊んでるんだよ」

どうやら母親と話しているらしい。

「もう遅いでしょ、帰ってきなさい」

などと言われているのだろうか。

私が子供の頃、当然ながら
携帯などという物はなかった。
いつの間にか夕暮れになり、
すっかり夜になってしまっても、
野原で遊び放題だった。

しかし、しばらくすると親たちが現れて、

「いつまで遊んでるの。もう帰るよ」

ひとり、またひとりと連れていかれる。
そうして、急に野原が暗く思えた頃、
私たちも帰ってゆく。
携帯で親に怒られることはなかったが、
帰ってから直に怒られたものだ。

男の子の友人2人は、
隣で友の携帯でのやり取りを聴きながらも
ゲームに夢中だ。
ゲーム機を握りしめ、
凄いスピードで指を動かしている。

だが、ゲームに集中しながらも、

「ねぇ、もう帰った方がよくねぇ?」

などと話し合えるのだから、現代の子供は
ずいぶんと器用だ。

私は、もう何年もゲーム機から遠ざかっている。
もう彼らのように指を動かせないし、
目まぐるしいゲームの動きを
目で追うこともままならない。

「もう、子供たちとゲームをしても
 ボロボロに負けるんだろうなぁ」

私がひとりごちていると、
再び彼らの携帯が鳴り、

「じゃぁね〜」

そう言うやいなや、
3人はダッシュで駆けていった。

ゲームをしながらワイワイと騒いでいるかと思うと、
携帯に出てしっかり応対をし、
急に解散を宣言して走り去る。
まったく、現代の子供たちの暮らしは忙しい。

私の子供の頃の遊びは、山村育ちゆえ木登りとか
駆けっことか、川で泳いだりだった。
トランプとかの、室内で遊ぶものも
あったのだろうけれど、
ほとんどは野山や川が遊び場だったのだ。

木登りや駆けっこ、川で泳いだりとなると、
年功序列というか、
年上のお兄ちゃんが絶対に有利だった。
小さい子供たちは毎日負け続けるのだが、
すぐ上のお兄ちゃんたちが少しずつ木の登り方、
早く走るコツ、泳ぎ方などを教えてくれるのだ。
それらを覚えて様々な遊びが上達した頃、
自分たちより下の子たちが遊びに加わってくる。
いつの間にか、負けてばかりから勝つようになり、
今度はコツを教える立場になるのだった。

小さい時に負け続けて悔しい思いもするが、
すぐに年上になって勝つことも経験する。
目の前の弟のような子供の負けて悔しそうな表情に、
ほんの少し前の自分を思い出したりする。

電子ゲーム機で遊んでいる現代の子供たちも、
私たちの頃と同じようなものなのだろうか。
ゲーム機では、早く買ってもらって、
多くゲームをこなした子供が勝つように思う。
年下の子供が勝ち続けることだって、
ごく普通にあるだろう。
負けを知らず、敗者の思いも感じ取れないまま
年長になるとすれば、いつか訪れる負けが
大き過ぎる挫折になるかもしれないなどと、
余計なお世話ながら思う。

新幹線に乗っていた。
向かいの席に座った子供が、
窓の外のおばあさんを見ている。
おばあさんは、しきりにジェスチャーで
孫との会話を試みている。
受話器を耳に当てているように左手を耳に付け、
右手でダイヤルに指を掛けて回す仕草を
繰り返しているのだ。

私や、彼の母親なら充分に分かる、
「また、電話するね」
のジェスチャー。

だが、悲しいかな孫は意味が分からない。
母親に、

「ねぇ、ママ、おばあちゃん、何してるの?」

現代の子供は、ダイヤルを回して
電話をかける経験など皆無に違いない。
プッシュホンの公衆電話さえ、
街ではあまり見かけないのだから。
それゆえ、おばあちゃんの孫への
渾身のメッセージは、
哀れ新幹線の開かない窓に
阻まれ続けるのだった。

私の子供時代は、
白黒とカラーの写真でしか残っていない。
動く映像になったのは、
私がすっかり大人になってからで、
それもずいぶんとぼやけている。
ダビングを繰り返して劣化した映像は、
なんだか夢で見る光景のように頼りない。

最近のビデオ機器は、
ハイビジョン撮影のものが多い。
現代の子供は、小さい頃からの自分の過去を
鮮明な映像で見ることができるのだ。
動く自分の、小さい頃の鮮明な映像を見るというのは
どのような気分なのだろうか。

客席は、大勢の子供たちで埋まっている。
分からないことは
ネットですぐに検索できる時代のせいか、
子供たちは私たちの子供の頃よりずっと
利口そうな表情をしている。

そんな現代の子供たちが、
昔からのアナログなタネを使ったマジックを
凝視している。
不思議な現象に口をポカンと開け、
タネを推理する脳など停止させたままのように、
ただマジックを見つめている。

その子供たちの表情は、
小さかった私の子供の頃と同じように思えて、
なんだか嬉しい。

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2010-09-26-SUN
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