MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『熱き名古屋の夏』


お盆の季節に、
名古屋でマジック大会が開催されるという。

名古屋を中心に活動しているYさんが、
還暦を迎えると同時に
自らのマジック歴50年を祝して
大イベントを主催するのである。

そこで、長年に渡ってYさんと交流のある我々も
ゲスト出演することになったのだ。

名古屋市内の老舗ホテルに到着すると、
日本のあちこちから
多くの懐かしいマジシャンたちが集っていた。

さて、まずは初日の
スペシャル・ショーへの出演である。

長らくマジック愛好家、マニア、マジシャンたちの前で
演じてなく、不安ではあったが大いに盛り上がった。

ショーの最後は、
もちろんYさんご夫妻のマジックである。

マジック歴50年の努力、夢、希望、挫折、感動などを
たった10分に込めたような迫真の演技であった。

袖から見ていて、思わず、

「がんばれ〜!」

と大声で声援を送ってしまうのだった。

ひとつの、マジシャンの理想の姿を見たように思った。
上手く見せようとか、不思議さで圧倒しようとか、
かっこ良く見せてやろうなどといった嫌らしさは
微塵もないのだ。

ただ、これまで、
「がんばれば、きっとできる」
という信念を失わず生きてきたマジシャンだけが、
指先の震えさえも感動に変えられてしまうのだと知った。

翌日は早起きをして、朝食をしっかり食べた。
午前9時からクロース・アップ
(目の前で見せるマジック)のコンテストがあり、
私は審査員を命じられているのだ。

コンテストは2時間半以上かかる。
お腹が空いては審査などできないのだ。

控え室を覗くと、
すでにコンテストにチャレンジするマジシャンたちが
緊張しつつ準備している。

それに比べると、司会者や審査員たちには
一様に緊張感が見られないようだ。
司会者は深夜まで飲んでいたのであろう、
微妙に体が揺れている。
同様に、審査委員長も眠さを隠さず、瞬きが長い。

だが、いざコンテストが始まると、
審査員も集中力を高めて
テーブル上で起きる不思議を凝視している。
まるでライオンが獲物の動きを
息をひそめて見つめているようだ。

今回のコンテストには、韓国からの参加者が
ほぼ半分を占めていた。

彼らの多くが、日本のコンテストに
何度も挑戦しているのだという。
日本で経験を重ね、上位に入賞し、
自信と実績とともに欧米を目指すというのだ。

となると、審査員も適当に点数を付けるわけには
いかない。
私も、ネズミを狙う猫のように、
マジシャンの指先を追った。

ところで、マジシャンは陰気な人が多いそうだ。
確かに、マジックを見せている時は
軽いジョークを交えたりするのだが、
普段は無口でおとなしい人が多い。

マジック業界では、これを『マジック・インキ』と
言うらしい。

私は、最終日のマジック・ショーの司会も
仰せつかった。

出番は、次々と登場する
マジシャンとマジシャンの間である。
ゆえに、マジックではなく
得意のジョークで繋いで行こうと決めた。

「白鳥はタバコが嫌いなんです。
 白鳥は、タバコはスワン」

ところが、客席からは、

「はははぁ、えぇ?」

くらいの反応しか返ってこない。

どうやら、観客の大部分がマジック・マニアで、
ジョークよりもステージ上のマジックに驚いたり
感心したり、参考にしたりメモしたりに
忙しいようなのだった。

マジック・マニアが大爆笑するマジックもあった。

普通の観客には分からない、
マジックをこよなく愛するマニアの人たち向けの
マニアックなジョークなのだろう。

私は急遽、話す内容を変更し、
有名マジシャンの話題に切り替えた。

「プリンセス天功さんは永遠の24歳です。
 遠い将来亡くなっても
 『プリンセス天功さん、老衰のため死去。
  享年24歳』です」

ウケた。やれやれ。

ショーの最後は、世界マジック・コンテストで
堂々の1位を獲得したMさんであった。

世界大会のコンテストの審査は、
世界各国の代表が務める。
それぞれのお国柄、センスも好みも違う。
また、自国のマジシャンを応援する気持ちも隠さない。

そんな審査員たちを、素晴らしいテクニックと演出、
美しいまでの不思議な現象で魅了し、
ダントツの1位に輝いた日本人マジシャンである。

私は、Mさんへの尊敬と賞賛の気持ちを込めて紹介した。
Mさんにスポット・ライトが移り、ひとときの、
極め付きの幻想が始まった。

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2010-08-22-SUN
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