MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『特殊な普通人?』


私は、左利きであること以外は
ごく普通の人間である。

卓球やボーリングに興じていると、
「へぇぇ、左利きなんだ」
などと言われたりするが、
左利きは少数であるだけで、
変わり者というわけではない。

私はひとりの平凡な人間だと思っている。

平凡な人間の私が、いつものBarで、

「じゃぁ、そろそろ
 ウンダーベルグをロックで」

ウンダーベルグ(Underberg)は薬草酒の一種で、
アルコール分は44パーセントもある。
飲み慣れないと、
相当に苦い胃薬のように感じるかもしれない。

生産国はドイツで、
たった20mlの小さな可愛らしい瓶に入っている。

私が美味しそうに飲んでいると、
「なんですか、そりゃぁ」
そう聞かれることが多い。

初めてのBarでウンダーベルグを注文すると、
「はぁ? 」
バーテンダーさんさえ知らないこともある。

また、私が飲んでいて、
同じようにウンダーベルグを飲んでいる人に
出くわしたこともない。

アルコール度数は高いのに、
なぜかそれまでの酔いが醒めるように感じるのだが、
多くの人の感想は、
「うへぇ、きついねぇ。
 酔っ払うよ、こりゃぁ。
 よく飲めるねぇ、こんなの」
散々な言われようである。

だが、私にとっては何より美味しいお酒なのだ。
ウンダーベルグを味わいながら、
「ひょっとして、
 私は変わり者なのだろうか?」
少し不安に思う。

私は、計算をすると風邪を引く。

帳簿を睨みつつ、電卓に数字を入れて計算をする。
その結果を、間違えてもいいように鉛筆で記入する。
電卓で計算しているにもかかわらず、
2度目の計算の結果と合わないことが多い。

仕方なく、何度か計算を続ける。
終わった頃には背中に汗が滲み、疲れきっている。
すると免疫力が落ちて、
普段は撃退できている風邪の菌が増殖するらしく、
ついには風邪を引いてしまうのだ。

毎年、帳簿を整理しなければならない時期になると
必ず風邪を引いていた。
昨年やっと、この風邪と数字を計算する行為との
因果関係に気付いたのであった。
私は、計算をすると風邪を引くのである。

周りの友人や知人にこの新発見を語るのだが、
誰ひとり、
「私もだよ」
と応じてくれる人がいない。
私は、変わり者なのだろうか。

近所のスパゲティ専門店に行くと、
いつもアサリのスペシャルを注文する。

アサリ、椎茸、えのき、キムチ、
ペースト状になった納豆が入っている。
美味しい。クセになる味である。

ただ、私はアサリの身が好きではない。
そこで、
「アサリのエキスは大好きなんだけど、
 身は嫌いなんですよ。
 アサリの身だけ取り除いてくれませんか?」

マスターは仕方なく、
箸でひとつひとつアサリの身を取り出してくれた。

以来、店に入るとマスターが、
「アサリのスペシャル、
 アサリ抜きでいいですか?」
と聞いてくる。
すると、他のお客さんが怪訝そうな顔で、
「アサリのスペシャルの、アサリ抜き?
 誰だよ、そんな変なのを頼む変わり者は?」
とでも言いたそうに私を見るのだ。
ひょっとして、私は変わり者なのだろうか。

生粋の凡人という自覚が揺らいで、
私はついに、
「俺ってさぁ、変わり者かなぁ? 」
そう飲み友達に聞くと、
彼はうんざりしたように、

「そりゃぁ、33年も苦手なマジックを
 続けてるんだから、
 変わり者に決まってるよ」

このページへの感想などは、メールの表題に
「マジックを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2010-07-04-SUN
BACK
戻る