MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『ダメ診断』


私は常に思っている。

「ダメな人間にはなりたくない」

そりゃもう、なぜだかいつも思っている。
いつも、もうひとりの私が問いかけてくるのだ。

「おい、ダメになってないか?
 そんなことしてて、いつかダメになるぞ。
 ひょっとすると、すでに
 ダメ人間になってしまっているかもしれないぞ。
 大丈夫か?」

ダメなマジシャンになってしまう、
あるいはもうなっていたとしても、
それほど気にはならない。

なぜなら、ダメなマジシャンだけならば、
その悪影響はごく限られた範囲に
留まると考えるからだ。

ダメなマジシャンのせいで
一家離散に追い込まれた、
などという苦情は未だに聞いたことがない。
ダメなマジシャンのために
新幹線が停まってしまい、
3万人に影響が出たというニュースも
聞いたことがないのだ。

今はマジシャンとしてではなく、
人間としてダメになっているかどうかが
気になるのだ。
今の私は、はたしてダメ人間なのだろうか?
だとしても、ダメの芽を摘み取る余裕は
まだあるのだろうか?

私の考えるダメな人間とは
以下のような人物である。


(1)馬鹿なダメ人間。

馬を鹿、あるいは鹿を馬と間違えるほど、
私は馬鹿ではないと思う。
ただ、馬鹿な人物を
利口と思い込んでしまったことは
何度もあるのだ。

「なぜ、あんな馬鹿と付き合ってんの?」

そう言われて、しみじみ見て
やっと相手の馬鹿な部分に気付いたりするのだ。
しかし、

「あいつは、馬鹿だねぇ、まったく」

などと、その馬鹿ゆえに愛してしまう、
愛嬌のあるお馬鹿さんもいるから人間はややこしい。
本当にダメな馬鹿は、
愛嬌のない馬鹿をいうのかもしれない。


(2)スケベなダメ人間。

「男はみんな、スケベなんだよっ!」

そう開き直ってはばからないドスケベ、
これは男性がなりやすいダメ人間。
確かに、男性はすべてスケベ体質であるかもしれない。
だが、ほとんどの男性は
そのスケベ心を包み隠しているもの。
隠しても隠しても顔や言動に表れてしまうようなら、
これは相当にみっともないダメ人間であろう。


(3)時間にルーズなダメ人間。

「だってぇ、私の出身地の◯◯県ではね、
 待ち合わせ時間に家を出るのが普通なんだもん」

すると◯◯県では、
テレビ局の人も出演時間に家を出るのであろうか。
NHKのニュースも、
40分くらい遅れて始まるのだろうか。

「ちょっと遅れましたが、
 だいたい12時半くらいになりました。
 ニュースをお伝えします」

てな状態なのであろうか。
それはそれで、見てみたいような気もするが。


(4)ウソをつくダメ人間。

仕事柄、マジシャンは、
「タネも仕掛けもありません」などと、
タネや仕掛けだらけであるにもかかわらず
ウソをつく。
だが、それを信じる観客は少ない。
マジシャンのウソはバレているウソなのだ。

つまり、明らかにウソと分かるウソはウソではないのだ。
ゆえに、マジシャンは意外に正直とも言えるのだ。
仕事中あるいはステージ上限定であるが、
自分でも感心するほど見事なウソを思いつくこともある。
そんな時は、いっそのこと
ウソ発見機と対決してみたいとさえ思う。
ダメなウソとは、普段の生活の中でついてしまう、
善意のないウソ。


(5)単純なダメ人間。

妄想とカンだけで生きていると評価されている人間。
単に想像や夢想だけならば、
すぐに行動に結びつかないもの。

対して妄想は、
時に行動をともなってしまうから困る。
思いつくままカンの命ずるままに、
「こっちだぁ!」などと
説得力豊かに人々を先導してしまう。
具体的な根拠などまったくないにもかかわらず。


「おいおい、
 見事にお前そのものじゃないか。
 ダメ人間だねぇ。
 しかし、今更お前を止めるわけにはいかないし、
 もう少し反省しつつ、
 良き人間のフリくらいはして生きていこうよ」

もうひとりの私が、私の中でつぶやいている。

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2010-06-27-SUN
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