MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『ゴールド免許マジシャン』


自動車免許の更新を知らせる葉書が届いた。

早いもので、5年ぶりの更新である。
5月下旬から7月下旬までの2ヶ月間のうちに、
更新手続きをしなければならない。
手続きに必要なものは、
免許証と手数料3250円、
届いた更新のお知らせ葉書と書かれている。

以前は、更新に際して本人の写真が必要であった。
私は新宿に出て、
ヨドバシカメラ近くに設置してある
証明写真用のボックスに入った。

1回の撮影で4枚、確か600円くらいだったと
記憶している。
しかし、撮ってみたものの
どうにも写真の出来が気に入らない。

椅子を回して高さを調節したりしているうちに
フラッシュが光り、
それに驚いたような戸惑ったような、
どうにも冴えない男が写っていたのだ。

仕方なく再びコインを入れ、今度はにこやかに
笑顔満面で撮ってみた。

出来映えは上々であったものの、運転免許証の写真に
笑顔の写真は使えないことを思い出した。
免許用の写真は正面からのもので、
なぜか笑っていないものでないといけないのであった。

私は再びコインを投入し、
今度こそ落ち着かねばと深呼吸を繰り返し、
やっとの思いでよりマシな写真を撮ることができた。
この写真ならば、次回の更新まで
免許証に掲載されても恥ずかしくはないであろう。

ようやく、私は免許更新センターに出かけ写真を提出、
経路に沿って様々な手続きを終えた。

最後に、なぜかセンターでも写真撮影をするという。
初老のおじさんが面倒くさそうに、

「はい、そこに座って。
 はい、こっち見て」

フラッシュの瞬間、私は目をつぶってしまったと感じ、
その由をおじさんに伝えたが、

「ははは、大丈夫だよ。
 はいはい、あっちへ」

最後に30分ほど、
安全運転に関する講習なるものを受け、
やっと新しい免許証を手にしたのであった。

真っ先に真新しい免許証の写真を見ると、
意外にも私が何度も撮り直した写真ではなく、
髪の毛ボサボサで
何かに驚いたような顔写真が貼られていたのだった。

なんと、先ほどのおじさんが撮った我が近影が
免許証に貼られていたのだ。

どうやら、私が持参した写真は更新の申込書に
使われるのみで、センターで撮った写真が免許証に
貼られるというシステムになっているらしい。
やれやれである。
そうと知っていればたった1回、
600円の支出で済んだのに。

それ以前の更新のこと、
新しくなった免許証を見て驚いた。
なんと、私は古い免許証の写真と
まったく同じTシャツを着て写っていたのである。

毎年同じ時期に更新日が来るのだから、
同じような服装で出かけることが多いとはいえ、
まさかまったく同じTシャツとは思いもよらなかった。

「小石さん、インスタント写真を撮る場合は、
 白いパンツをはいて行くと良いのですよ」

奇跡の指先を持つ、マジシャンのM君が言う。
私は大いに驚いて、

「えぇぇぇっ、
 するとズボン下ろして
 白いブリーフを出して撮るのかい?」

M君はあきれたように、

「小石さん、
 今はズボンのことをパンツというのですよ。
 つまり、白いパンツがレフ板の役目をして
 良い写真が撮れるというわけですよ。
 パンツ下ろして写真なんか撮ったら
 捕まりますよ」

今回、私はM君のアドバイスに従って
白いパンツで出かけようと思う。

プロ・マジシャン用の免許証というものは、
幸か不幸か存在していない。
プロ・マジシャンになりたければ誰でもいつでも、
更新センターへ行く面倒もなくなれるのだ。

もしもプロ・マジシャンが免許制であったなら、
『素晴らしいマジシャンとなるために』などの
教本が支給されるのだろうか。

優秀なマジシャンにはゴールド免許が与えられ、
ついタネを明かしたマジシャンは、
免停や取り消し等の罰則が加えられたりして。

そんな時代が到来したならば、
私は更新の際の講習員となり、

「えぇ、オッホン、
 さて皆さんがこれからも
 良きマジシャンとして生きて行くために、
 私の映像を手本として見せましょう。
 良く見て勉強しなさい」

などと宣いたいものだ。

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2010-06-20-SUN
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