MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『ベランダ農夫』


昨年は、ベランダで様々な野菜を育ててみた。
イタリアントマト,
キュウリ、茄子、ゴーヤ、スイートバジル、パセリ、
インゲン、ピーマン、ししとう、レタス等だ。
せまいベランダでのプランターでの栽培である。

それでも、イタリアントマトは
我がベランダを大いに気に入ってくれたようで、
次から次へと実を付けた。

最初の小さな実を発見し大喜びしたと思ったら、
その後は毎日のように次々と生った。
始めは小さかった実が、
ちょっと面長の赤い実になる。
ひと枝にたくさんの実が生って
枝が曲がるほどだったので、
支柱を立てて支えた。
ありがたい出来、収穫であった。
40個あまり収穫できて、
さっそくパスタ用のスープにした。
トマトの香りが強く、美味しかった。

キュウリと茄子はプランターが小ぶりだったせいか、
ほんの4、5本しか収穫できなかった。
プランター、腐葉土やら無農薬の栄養剤やらを購入し、
手間ひまかけて毎日欠かさず水やりをしての
4、5本である。
おそらく1本あたり500円は掛かっていると思う。
実に高価なキュウリ、茄子であった。
キュウリは塩で、茄子は輪切りにして炒め、
ありがたくいただいた。

ゴーヤは見事に、花は咲いた。
小さく可愛く、明るい黄色の花がたくさん咲いた。
その花がやがて
ゴーヤの実になるはずだったのだが、
なぜか数枚に1本、それも笑ってしまうほど小さく
細い実しか生らなかった。

あこがれの自家製ゴーヤチャンプルーを作らんと
収穫するも、あまりの小ささに
豆腐と玉子に埋もれる始末。
近所の家の庭先に大きなゴーヤが何本も生っていて、
あまりの立派さに思わず手に取って見とれていた。
すると窓の中から、
「ゴホン」
という咳払いが聞こえてきた。

インゲン、ピーマン、ししとうも、
やはり我が家のベランダの住み心地が
よくなかったらしく、
小さく2、3個生ったのを収穫するとまた
1、2個という有様。

不思議だったのはレタスである。
始めは外側の葉から収穫し、サラダに加えて食べていた。
ほぼ毎日数枚ずつ取れていたのだが、
いつからか茎だけが縦にぐんぐんと伸びてしまった。
茎の成長に反比例して、肝心の葉は小さく申し訳程度で、
いつしか茎を眺めるだけの存在になってしまった。
鑑賞するだけのレタスほど悲しいものはない。

私は先祖代々続く、
由緒正しい農家の長男として生を受けた。
幼い頃から、祖父、祖母、
父母の畑仕事を見つめて育った。
ただ、なぜか見つめるだけで手伝わなかったのだ。
それゆえ、畑仕事についての知識を貯えぬまま
今日に至っている。

中学生の頃には、我が家の畑の所在すら把握しておらず、
自分の家の畑のスイカを盗んで食べてしまった
バカ息子であった。

私は、思うようにならないベランダの野菜たちを前にして、
絶好の環境にいながら
様々な知識を学んでこなかったことを
今更ながらに悔いたのであった。

なかなかやってこない今年の春を待ちながら、
私は心に誓っている。
故郷の父母にもう一度教えを請い、
今年こそ立派なベランダ農夫となるのだ。

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2010-04-25-SUN
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