MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『夢の北海道ツアー』


久しぶりに、北海道に行くことになった。

まずは羽田から札幌千歳空港へ飛び、空港から
タクシーで岩見沢に移動するという行程である。

なんせ季節は冬、そして北海道。
東京に比べて相当に寒いに違いない。
私は保温性の高い肌シャツを着、
カシミアのセーターを重ね、
更に厚手のダウン・ジャケットを着た。
これならば、北海道の厳しい寒さも怖くないであろう。

飛行機は途中でかなり揺れたが、
無事に千歳空港に舞い降りた。
預けておいた荷物を受け取り、
タクシー乗り場へと向かった。

自動ドアが開き外に出ると、
札幌は雲ひとつない快晴であった。

強烈な冷気がほほを刺すはずであったが、
強烈な冷気の代わりに、
まるで春のように温もった空気が
ほほを優しく撫でるではないか。

今日の札幌は、
どうやら季節外れに暖かい一日であるらしい。

カシミアのセーターに
ダウン・ジャケットを着込んだ私には、
暖かいというより暑いくらいではないか。
ダウン・ジャケットは脱いだが、まだ暑い。
しかし、セーターまで脱いでしまっては
肌着姿になってしまう。
仕方なくセーターの袖をまくって歩いた。

タクシーの中も、日差しに暖められた空気で
満たされていた。

千歳空港から岩見沢まで、だいたい1時間ほどだ。
早朝に起きたためか、車内が暖かいせいか、
私はタクシーが走り出してほどなく眠ってしまった。
季節外れの陽気に
カシミアのセーターはあまりに暑く、
保温性の高い肌シャツに汗がにじんだ。

その暑さ、汗のせいかどうか、
ステージ上で
何をやっても受けない悪夢を見てしまった。

タクシーが岩見沢市民会館に到着した。
案内された楽屋に入ると、
エアコンのスイッチが入っていなかった。
冬の北海道で暖房が不要なほどに、
暖かい一日なのだ。

ステージに向かい、ショーに使う音楽と
マイクのチェックをした。

「え〜、ナポレオンズです。
 マイクのチェック、
 マイクのチェックです。
 はい、OKです。
 では、はなはだ簡単ではございますが、
 これでマイク・チェックを
 終了させていただきます」

本番を待つ間、昼食をとることになった。

会館内のレストランのメニューには、
北海道ならではの海鮮丼、
味噌ラーメンなどがあった。

だが、今回はショーの後に打ち上げ会があり、
その席でウニとか蟹が出てくるに違いない。
そこで、私はビーフ・シチューと
ハンバーグのセットをいただくことにした。

「皆さん、こんにちわ。
 岩見沢は久しぶりにやってきました。
 岩見沢はいつ来ても、本当に良いところですね。
 ただ、具体的にどこが良いのかは分かりませんが。

 最初のマジックは、皆さんが
 一度も見たことのないマジックです。
 あの人気番組『笑点』で、
 つい先日収録したばかりのマジックですが、
 残念ながら編集の段階で
 カットされたマジックです。
 もったいないので、
 ここでやらせていただきます」

来る時のタクシー内で見た夢は
正夢ではなかったようで、
観客の反応は季節外れの暖かさ同様に
温かかった。

ステージは好評のうちに終わり、
市内の居酒屋に移動して
打ち上げ会となった。

いよいよ、ウニや蟹、
北海道の美味を味わい尽くすのだ。

ところが、

「こちらの居酒屋はですねぇ、
 焼き鳥が旨いので有名でして」

主催の方の説明通り、
テーブルには焼き鳥が
お皿いっぱいに並んでいるのであった。

「ウニとか蟹は、いつでも食えますからね。
 今日は珍しい北海道の焼き鳥を
 たっぷり味わってください」

私は背中に、再び汗をかいた。
残念なことにどうやらこれは現実、
夢ではなさそうだった。

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2009-11-29-SUN
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