MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『夜中に掻いて、書いて』

右の耳の奥が痛くなった。

耳かきをしていて、
ちょっと傷をつけてしまった。

その傷が治りかけると、かゆくなるのだ。
で、掻いてしまう。

かさぶたのようなものも気になり、
強く掻いてしまった結果、
とうとう腫れてしまったらしい。

耳奥が腫れて耳穴を塞いでいるらしく、
右耳は聞こえにくくなってしまった。

今までステレオで聞こえていたのに、
急にモノラルになった。

右から音がするのに左耳で音をキャッチするのは、
本当に奇妙だ。

まるで耳の中に水が溜まっているようにも感じられる。

困るのは、眠っている時である。
寝返りをうって右耳を下にすると、痛みが走るのだ。
その度に目が覚めてしまう。

夜中に激しい痛みで目が覚めると、
どうにもろくなことは考えられない。

もともと病気などあまりしたことがなく、
ちょっとした病気でも精神にダメージが来るのだ。

風邪を引いた時、あまりの具合の悪さに、

「これは、ただの風邪ではないかもしれない。
 以前に聞いたことがある、
 破傷風のような症状に似ている」

そう思いつめて病院に駆け込んだことがある。

私の説を聞いていた先生は、

「あのねぇ、破傷風の人は
 歩いて病院には来れないと思うよ」

あきれたように答えてくれたのだった。

夜中に痛みで目が覚めて、
やはり考えは暗い方へと進んでしまうのだった。

今回の耳奥の腫れ、痛み、
やはり尋常ではないかもしれない。

耳の奥といえば、脳に近い部分である。
もし、外科的な手術となれば大手術になるに違いない。

もし、万が一・・・。

夜中に遺書を書き始めた。
もう、何度目かの、夜中に書く遺書であった。

翌日、病院に行った。

「あぁ、ずいぶん掻いてしまったようですねぇ。
 かさぶたを剥がしたりしてますねぇ。
 軟膏を塗るのがいいでしょうね。
 掻いちゃダメですよ」

診察は5分ほどで済んだ。

軟膏を綿棒につけて、朝晩塗ることになった。
外科的な大手術は避けられ、
ただ自分で軟膏を塗るだけでよくなったのだ。

病院からの帰り道、急に腹が減りだした。

軟膏のチューブがほんの少し細くなった頃、
早くも痛みは消えてしまった。

かゆみとかさぶたが、ほんの少し残っている。
軟膏を綿棒につけ、塗ると同時に掻いている。

私の何度目かの遺書は、
今回も数日後に消すことができた。

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2009-08-30-SUN
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