MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『続々・古い日記』

ハンカチが一瞬にしてステッキに変わるマジックなど、
まずはオーソドックスにスタートしてみた。
しかし、どうやらマジックというものを
初めて見るらしく、反応はイマイチだ。
それでも、人だかりはすごい。
始めて数分で100人くらいに囲まれた。
そんな大勢の目が、
ニコリともせず見つめているのだった。

我々はお笑いマジシャンである。
なのに、大勢の群衆に笑顔はなかった。
このままでは引き下がれない、
ずいぶん早めではあるが、
バケツに似た円筒形の筒を頭にかぶり、
頭を回すマジックをやってみた。
だが、観客たちはますます困惑の表情を
浮かべるばかりであった。

「こいつらは何人だ?
 東洋人だろうか?
 ずいぶんと遠くの国からやってきて、
 いったい何をしている?
 これは、見せ物なのか?
 売り物か?
 くれるのか?」

今にも質問を浴びせようとばかりに、
群衆の輪が小さくなってきた。

一番手前の男が、
なにやらつぶやいたかと思うと、
テーブルに立てかけておいたマジック用のステッキを
掴んだ。
私は慌ててステッキを掴み返し、

「コラッ」

日本語の『コラッ』なんて分かりはしないだろうが、
男はステッキを持つ手を離してくれた。

ところがそれを機に、数人の男たちが
マジックで出現させたものを掴もうと
寄ってきてしまった。
やむなく、出現させたゴム製のハトやウサギを
観客に見せることなくテーブルにしまい込んだ。
何かを出してはしまい、
もうマジックどころではない状況になってきた。

そこに、警官数人がどこからか現れ、
群衆を警棒で威嚇しつつ会場整理を務めてくれた。
最前列の客たちは座り、
後ろの群衆も誰ひとり去って行かない。
いったい、群衆が何を期待しているのか分からないまま、
最後のネタを披露。

私が仰向けに寝て、そこに大きなシーツ、
布をすっぽりとかぶせる。
すると、私の体が30センチくらい浮くという
マジックである。
数回浮いたり沈んだりした後、
布を取り払うと、
私が腕立て伏せをしているというコメディ・マジックだ。
布が外れ、私は腕立て伏せをしたまま
観客の表情を見回した。
そこには、ますます困惑しつつも
拍手をしている群衆がいた。

「おい、踊ってごまかせっ」

相棒の言葉に、
私は阿波踊りのような踊りを繰り返した。
すると、急に観客が笑いだしたではないか。

「俺はいったい、
 遠くの国で何をしているのか?」

観客の笑顔を見ながら、
今度は私が困惑の表情になった。

             (つづく)

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2009-07-19-SUN
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