MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


プロ・マジシャンは楽しい稼業だと思っている。
唯一大変なのは、新しいネタ、オリジナルのマジック、
これまでにないアイデアをひねり出さなければ
ならないことなのだ。
今日も今日とて無い知恵を絞りつつ考えた、

『新ネタ!』

ステージに箱がある。私は高らかに宣言をする。
「この箱の中に、ある食べ物が入っています。
 これから、お客様にたったひとつ、
 お昼に食べたいものを決めてもらいます。
 その食べ物が、この箱の中に入っています。
 つまり、もうすでに分かっていて
 予言してあるのです」

観客をひとり、ステージに上げる。

「これから、次の3つの食べ物の中からひとつだけ
 頭の中に思い浮かべてください。
 カツ丼、カレー、ハンバーグ、この3つです。
 でも、まだ決めないでください。
 これから神経を集中してもらうために
 アイ・マスクをしてもらいます。
 そうして約20秒の間に、
 今いちばん食べたいものを決めてください」

私はカウントしながら、
アイ・マスクをした観客の鼻先に
カレー粉が山盛りになったお皿を持っていく。
バタバタと手で扇いで
カレーの匂いをたっぷりと嗅がせる。
20秒数えたら、カレー粉のお皿は
テーブルの中に隠してしまう。

観客のアイ・マスクを外し、尋ねる。

「さぁ、食べたいものは決まりましたか?
 それは何ですか?」

観客は苦笑を交えつつ応える。

「カレーです」

私は深々とうなずき、

「なるほど、カレーですか。
 では、あの箱の中を観てみましょう」

すると、なんと箱の中には
カレー・ライスが入っている。

観客にマジシャンの思い通りのトランプを
引かせる技法を、フォースという。
このランチ予言というマジックの場合は、
世界初、まったく新しい
匂いフォースなのである。
この新フォースは、マジック業界から
大いに絶賛されるであろうと確信する私であった。

放送後、多くのマジシャンたちからメールが来た。

「面白かったです。
 でも、あれはマジックなのですかねぇ?」


『お寿司の予言』

いつものお寿司屋さんで、
ビールを飲みつつ寿司を食べていた。
平目、イクラ、イカ、マグロ等である。
すると突然、新しいマジックを思いついた。


ひとりの観客をステージに上げ、説明をする。

「ここに、平目、イクラ、イカ、マグロという
 4種類のお寿司を用意しました。
 どれか一皿を選び、テーブルに置いて、
 この布で覆い隠してください。
 それを、私の相方が透視して当ててみせます」

私の相方は観客に背を向けている。
その間に、観客にお寿司を自由に選んでもらい、
テーブルに置いて布で覆ってもらう。

「では、透視を始めてください」

相方は必死に透視しようとするが、
まるで分からないというような表情をする。
そこで、私は相方に告げる。

(1)平目が選ばれた場合。

「おいおい、まだ分からないのか?
 何か、ひらめかないのか?
 ヒラメかないのか?」

(2)イクラが選ばれた場合。

「いくら何でも時間が掛かり過ぎだよ。
 イクラなんでも‥‥」

(3)イカが選ばれた場合。

「さぁ、いかがでしょう?
 さぁ、イカがでしょう?」

(4)マグロが選ばれた場合。

「さぁ、何か答えてください。
 ひょっとしてまぐれ当りするかもしれない、
 マグロ当たりするかも」

相方は私の言葉の中のキィ・ワードを聴き、
見事に透視を成功させたのであった。

放送後、多くのマジシャンたちからメールが来た。

「面白かったです。不思議じゃないけど」

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2009-06-07-SUN
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