MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『ハロー・タイム』

今年の夏、
世界マジック・コンテストが中国、北京で開催される。
これまで長きに渡って3年に1度、
主にヨーロッパの各地で開催され、
マジックのオリンピックと称される
世界最大のマジック・イベントである。

私はこれまで、この大会に10回以上参加している。
毎回コンテストに参加して、
入賞したり外れたりしてきた。
3年に1度だから、
もう30年に渡って参加してきたことになる。
新米のプロ・マジシャンがいつの間にか大御所、
ベテランと呼ばれるマジシャンになってしまったのだ。

確かに、私は3年に1度、
世界中のプロ、アマを問わないマジシャンたちと
技術や演出、演技等を競い合ってきた。
だが、その成果が今に生きているかどうか、
甚だ疑問ではある。
大体において、私の芸風はプロ・デビュー当時と
まるで変わっていないように思えるのだ。

かの春風亭昇太師匠が言っていたことを思い出す。

「芸が年月とともに重なって行く芸もあれば、
 まるで重ならない芸もある」

確かに、昇太師匠はもう芸歴25年にもなろうとする
落語家であるにもかかわらず、
芸風も実にフレッシュである。
それに、未だ小学生のように
ピッカピカの肌の持ち主なのだ。

ヨーロッパのある国では高い評価を得たマジックも、
別の国では見向きもされない場合もあった。
入賞したマジックを日本で演じても、
あまり良い反応を得られなかったりすることもある。
それぞれのお国柄の微妙な違いということだろうか。
それでも、3年に1度の武者修行は、
私のモチベーションを大いに高めてくれたのだった。

世界中から多くのマジシャンが参加し、
大会期間中に何度も顔を合わせたりする。
自然と会話を交わすようになり、
親しくなったりする。
そんな仲間と3年に1度だけ、このマジック大会で出会う。

「ハロー!
 お久しぶり。お元気でしたか?」

こんな再会を、
いつかハロー・タイムと呼ぶようになった。
マジックの技を競うだけではない、
このコンテストの大きな楽しみでもあるのだ。

北京の大会でも、あちこちで、

「ハロー!
 久しぶり〜!」

という会話が交わされるのだろう。
30年という年月が経ち、

「あれれ、○○さんにまだ会ってないなぁ。
 ○○さん、どうしたんだろう?」

「彼は、もう‥‥」

残念ながら、親しかったマジシャンが
ブロークン・ウォンド(折れてしまった魔法の杖の意。
亡くなったマジシャンを意味する)になってしまったことを
知らされたりもする。

さて、北京での大会ではいくつの、

「ハロー!
 初めまして!」

新しい出会いがあるのだろうか。

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2009-05-03-SUN
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