MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『スーパーマンと花粉症』

ノートパソコンの調子が悪くなった。
そこで、私はつい先日も
メンテナンスをしてもらった担当者の
名刺の電話番号をプッシュした。
すると音声案内になっていて、

「製品に対するお問い合わせは1を、
 修理、故障に関するお問い合わせは2を、
 その他のお問い合わせは3を押してください」

私は2を押し、やっと出た男性に、

「あの、Mさんはいらっしゃいますか?」

すると男性は戸惑ったように、

「こちらは、サービスセンターでございまして、
 Mはどちらのショップの者でしょうか?」

私は、

「渋谷のショップの担当の方の名刺を見て
 電話しています。
 渋谷のショップに直接電話したいのですが」

すると、男性の応えは予想外なことに、

「はぁ、その場合は、5を押してください」

私は困惑しつつ、

「でも、アナウンスは
 3番までしかなかったのですが」

男性は言いにくそうに、

「はい、でも、5番を押せば繋がりますので」

言われた通りに5を押すと、
確かに渋谷のショップに繋がったが、
私の頭の中に、

「なぜ、3番までしかないのに、
 しかも4番ではなく5番なのだろう」

という疑問が強く残った。

さて、今度は普通に女性が出てくれた。
またまた、

「製品の場合は1を・・・」

なんてことになったら、
パソコンではなく
私が調子悪くなってしまうところだ。

渋谷のショップに着き、
私はスタッフの男性に声をかけた。

「パソコンのメンテナンスを
 してほしいのですが」

男性はテーブル上のパソコンの画面を指し示し、

「こちらに予約のためのお名前等を
 入力してください」

やれやれ、
もはや紙にボールペンで書いたりするのは
はるか過去のことなのだろうか。
私は仕方なく入力作業を始めた。

このショップに来る度に思うことだが、
カウンターの中で客の質問に軽やかに答え、
キィ・ボードでなにやら打ち込んでいる人々が
羨ましくてならない。
私には、彼らのようにパソコンを扱えないし、
理解もできないのだから。

彼らはキィを打ち、切り替わる画面を見ながら、

「ふんふん、なるほど。
 はいはい、そうでしたか」

などと、まるでパソコンと
話をしているようではないか。
そうして、パソコンは良く躾けられた犬のように
従順に言うことを聞いてくれるようになるのだ。

「誰でも、習えばできるようになりますよ」

などと男性スタッフは言うのだが、
なんせ私はパソコンと対話などできたことがない。
実に羨ましい、たった一日でもいい、
あのカウンターの中に立って、

「ふんふん、なるほど。
 はいはい、そうでしたか」

などと軽やかにキィを叩きたいものだ。

私がうっとりと彼の作業を見つめていると、

「ヘェックション、
 ズズズズゥ、
 フェフェ、
 フェックショ〜ン」

「どうもずびばせん、
 花粉症なもので」

パソコンを自在に操るスーパーマンのような彼も、
どうやら花粉にはなす術がないようだ。

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2009-04-19-SUN
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