MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『文豪への道』

私の初めての小説
『神様の愛したマジシャン』が出版されたのは、
昨年の6月である。
当初、筆者としては
書店に並ぶ自分の本が気になってしまい、
毎日のようにあちこちの書店を見て回った。
仕事で地方に出かけた時も、
書店を探しては私の小説が並んでいるかどうか
確認をした。

渋谷駅近くの書店では、
ありがたいことに私の小説が平積みになっていた。
つい手に取ってパラパラとページをめくり、
ひとしきり感慨に耽ったものだ。

「ひょっとして1冊も売れなかったら、
 この書店さんに申し訳ない。
 著者自身が自分の本を買うというのは
 変かもしれないが、一冊だけ買おう」

1冊をレジに持って行って購入した。
他の小説家の皆さんは、
自分の本を買ったりなどしないのだろうか。

その後、渋谷に行く度にその書店を訪ね、
自分の小説があるかどうかを確認した。
平積みになっていた本がかなり少なくなり、
月日が過ぎるに従って
平積みの位置から棚に移動していた。
本の表紙を正面にしてあり、
目線の高さの棚にあるので、
目立つ場所ではあった。
更に数週間後、小説は背表紙だけを見せて
棚に収まっていた。
次に訪れると、
とうとう私の小説は1冊もなくなっていた。

売れたのだろうか、
それならば喜ばしいことだが、
単に売れ残って返本されてしまったのかもしれない。
一抹の寂しさとともに、

「思ったよりも長く文芸書のコーナーに
 留まってくれていたなぁ」

とも思ったりした。

しばらくして、
私が最近ハマっている料理の本を探しに
渋谷の書店を訪れ、文芸書のコーナーを覗いてみた。
すると、『神様の愛したマジシャン』が
発売当初のように平積みになっているではないか。
目を疑うとはこのこと、
多くの新刊書とともに再び高く積まれているのだった。

「これはありがたい。
 著者としては感謝の気持ちを込めて
 1冊購入するべきであろう」

私は再び自らの著書を手に取りレジへと向かった。

「あの、この本はまた平積みになっていますが、
 あの、売れてるんですかねぇ」

などと訊いてみたい衝動に駆られたのだが、
さすがに訊くことはできなかった。


今、私は一生のうち1冊くらい、
自分が納得できる小説を書いてみたいと切に思う。
初めての小説は、
とても満足にはほど遠い出来であると思っている。
自分で書いて自分で買った自分の小説を、
自ら読んでみて考えた。
『神様の愛したマジシャン』という小説は、
例えるなら日常まったく運動しない人が、
よろけつつもマラソンを完走しようと
必至に走っているような作品と言えようか。
あごはあがり息は絶え絶え、
脚はもつれっぱなし、
それでいてよくぞ完走できたものだ。

そこで、続編を書くにあたって
今度こそペース配分を考え、
読み応えのある小説を目指さなければならない。

続編では、いよいよプロ・マジシャンを目指す
主人公の一年を書こうと思っている。
つまり4月から翌年の3月までの物語である。
私はさっそく電卓を取り出して計算を始めた。
1冊の小説に必要な枚数は
400字詰め原稿用紙でおよそ300枚、
それを12ヶ月で割ると
1ヶ月分の物語に要するのは原稿用紙25枚である。
世の中に小説家は数多く存在するが、
小説を書き始めるにあたって
まず電卓を取り出す方はいないであろう。

続編の構想であるが、
まず主人公である岡田誠くんは
橋光彦先生の指導を受けながら
プロ・マジシャンへの道を歩み始める。
著名なマジシャンであったが
今は病の床にある父、北岡宇宙の後継となることを辞退し、
ひとりの新人プロ・マジシャンとなる。
北岡宇宙という名跡を継いだ
弟子のマジシャンとの確執、
一度はマジック界を去ったはずの
兄、良のプロ・マジシャン復帰、
敬愛する橋光彦先生に降り掛かる引退の危機、
ほのかな想いを抱き続ける羽島先輩との再会、
そして新たな恋などを書こうと思っている。

書き始めた原稿の枚数は早くも9枚、
残すところあとたった291枚、続編の完成は近い。

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2009-02-22-SUN
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