MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『お歳暮』

落語家の三遊亭○○郎さんから、
今年もお歳暮が届いた。
まるで我が家の冷蔵庫からビールが消えてしまったのを
見ていたかのようなタイミングで届き、
ありがたさもひとしおである。


もう10年以上も前のこと、私の知人から電話があった。

「僕の親戚のお寺が長野にあるんですよ。
 そこで、ぜひとも落語会を
 催したいと言ってるんですが、
 お知り合いの落語家さんを紹介してくれませんか。
 もちろん、ナポレオンズさんも一緒に」

そこで思い出したのが、
東北地方を一緒に公演して廻ったことのある
○○郎師匠だったのだ。

師匠は安いギャラにも関わらず快く引き受けてくれ、
寺の広間に集まった檀家の人々を
大いに笑わせてくれたのだった。
我々と師匠の高座の後、住職が、

「いやぁ、○○郎さんの落語は初めて聴きましたが、
 面白かったですなぁ。
 このような腕前ならば、
 真打ちにもすぐになれるでしょうなぁ」

と挨拶をされた。
しかし、すでに○○郎師匠は真打ちになっていて、
私がそのことを住職に告げると、

「そうですかぁ、そりゃ申し訳ない。
 まさに、知らぬが仏、ですかなぁ」

住職が見事に切り返し、
会場は再び笑いに満ちたのだった。


その年の暮れから、○○郎師匠から
お歳暮をいただくようになってしまった。
あの小さな、ギャラの少ない催しを紹介しただけなのに、
今日までずっと送っていただいているのだ。

いつの日にか、大きな仕事で
ギャラがびっくりするほど高額の仕事を
○○郎師匠に紹介せねばならない、
ビールをいただく度にそう誓う私である。


私は、専修大学の同好会、
マジック・サークルの出身である。
卒業後も、多くのサークルの同期、後輩たちと
交流を持ち続けている。
同期や後輩たちは日本各地で暮らしていて、
その地方の公演にも駆けつけてくれる。

後輩たちから、今年もお歳暮が届き始めた。
ありがたいことに、青森や鳥取、静岡や宮城など、
彼らの暮らす土地土地の名産を送ってくれるのだ。

当然ながら、私は今年のお歳暮として
私の著書『神様の愛したマジシャン』
お礼として贈っている。
残念ながら、
「先輩の小説、面白く読みました」
という返事はまだ一通もない。


プロ・マジシャンの後輩から、
今年もお歳暮が届いた。
以前、マジック番組の司会を務めていた時、

「私が、番組のゲスト・マジシャンの
 選考係をやってます。
 私の選考基準は、お歳暮をくれるかどうかです、
 はっはっは」

もちろん冗談であったのだが、
それ以来、お歳暮をいただくようになった。


博多のKさんから、今年も美味しい明太子が届いた。
Kさんは、九州アマチュア・マジック界の
ドンと呼ばれる人だ。
面倒見が良く、穏やかな人柄で誰からも慕われている。

私が東京でマジック大会を主催した際、
思った以上の赤字を抱えてしまい、
Kさんに泣きついたこともあった。

「なにかと金がかかるのじゃろ。
 分かった、儂が少し面倒みちゃろ」

少しどころか、
大変な金額を支援してくれたのだった。

お金だけではない、
それ以降のマジック・イベントにも
精神的な支え、サポーターになっていただいたのだった。


Kさんお気に入りの旨い明太が届いた。

Kさんがこの世を去ってしまって
もう何年になるのだろう。
なのに、
Kさんがお元気だった頃と変わらず、
今も届いている。
きっとあの優しいKさんのこと、
後々までも贈り続けるよう、
ご家族に頼まれたに違いない。

遠い空から、
今年もKさんのお歳暮が届いた。

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2008-12-28-SUN
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