MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『神様の愛したマジシャン』

親愛なる『ほぼ日』読者の皆様に
ご報告いたします。
私、この度二足の草鞋(わらじ)を
履くことになりました。
プロ・マジシャンという職業を続けながら、
とうとう小説家デビューを果たしたのであります。

思えば30年前、私は父に宣言したのでありました。
「お父ちゃん、実はねぇ、
 俺はプロのマジシャン、
 手品師になることにしたよ」

四年という長きに渡って
一生懸命に仕送りをしてくれた父は、
なんとも悲しそうな表情になり、
「手品師というのがどんな仕事をするのか、
 さっぱり分からん、分からん」
そう言ったきり、背を向けて黙ってしまったのだった。

数年後に、初めてNHKに出演する機会を得た。
当時、お昼に生放送されていた
『昼のプレゼント』という番組である。
今のようにビデオなどの録画機器のない時代、
父はブラウン管の前で
固唾を飲んで見ていたに違いない。
「手品師というのは、未だに分からんが、
 NHKに出してもらえたからには、
 まぁ、ちゃんとした仕事なのかもしれんなぁ」

まるでNHKに就職したと勘違いしたかのように、
父の声は温かくなっていた。
私は今でも、
このことでNHKさんに深く感謝申し上げている。

今年の春、私は再び父に告げた。
「お父ちゃん、実はねぇ、俺は小説を書いたよ」
はて、父はどのような反応を見せるのかと
思ったのであるが、
「ふぅん、それは本屋に並ぶ小説かの」
父もずいぶんと年老いて、
かつてのような動揺はまるでなく、
「小説も、良いかもしれんなぁ。
 出たら本屋で買うでなぁ」」

さて、父も買って読んでくれるであろう
私の初めての小説『神様の愛したマジシャン』は、
ひとりの大学一年生の少年が
プロ・マジシャンになれるだろうか、
はたして才能はあるのだろうかと悩む
青春小説である。

「ということは、小石さんの自伝ですか」
などと言われるのだが、
すべてフィクション、頭の中で創造した物語なのだ。
もちろん、これまでのプロ・マジシャン生活の中で
経験、あるいは見聞きしてきた事柄を素にはしている。
実在するマジシャンを想わせる登場人物も
あるかもしれない。
しかし、登場する人物および団体名は
実在するものと一切関係ありません。
悪く書かれているマジシャンを、
「これは、明らかにオレのことを書いている。
 許せん」
などという誤解のありませんように。

また、マジシャンの書いた小説というと、
なぜだかミステリーと決めつけられることが多い。
これまでマジック愛好家の書かれた小説の多くが、
推理小説であるからであろうか。
マジックの秘密の部分であるタネが、
推理小説のトリックに流用しやすいのは確かだ。
したがって、マジックに精通した人であれば、
斬新なトリックを仕掛けたミステリー小説を
書けるのかもしれない。

ところが、私は自慢ではないが
マジックの苦手なマジシャンである。
マジックのタネの部分に精通しているとも言えない。
そんなマジシャンが書いた小説は
推理小説であるはずもなく、ミステリーでもないのだ。

『神様の愛したマジシャン』(徳間書店)は、
このエッセイを読んでいただく頃には
書店に並んでおります。
帯に書いていただいた皆様の
素晴らしいコメントだけでも、
ぜひともお読みいただきたい。
そのついでに本文も読んでいただき、
マジックの裏側に隠されたトリックではなく、
マジシャンの心に秘めた想いを感じていただければ
幸いであります。

マジシャン、あるいは小説家
小石 至誠

明るく軽く親切なのに。
 ほんの少し悲しみの味がするのだ。
 マジックというのが、もともとそういう
 素性のものなのだろうか。ー
        糸井重里(帯コピーより)


「神様の愛したマジシャン」

著者:小石至誠
価格:1,365 円(税込)
発行:徳間書店
ISBN-13: 978-4198625429
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2008-06-20-FRI
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