MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『夢のアシスタント』


う、うん?
なんだか古そうな手紙が出てきたわい。
はて、誰からのじゃろうなぁ、どれどれ。
うん? こりゃ、ひょっとすると、
もう30年も前のものじゃなかろうか。
ほれ、あの、今もちょこちょこテレビに出とる、
あのマジシャンからきた手紙でなかろうかのう。
どれどれ、中を見てみるか。
おぉ、やはりそうじゃ。
しかしのう、もう30年も経ったかのう‥‥。
「前略
 大前田 理様
 常日頃から、大前田様には
 なにくれとお世話になっております。
 私事ながら、この度無事にS大学を卒業いたしました。
 つきましては、以前からお話いたしておりました通り、
 いよいよプロ・マジシャンへの道に
 歩み出す所存でございます。
 S大学在学中はマジック・サークルに所属し、
 様々な練習、研究を重ねてまいりましたのは、
 すでにご承知のことと存じます。
 4年次になりましてからは、
 先輩プロである橋達也先生の門を叩き、
 プロ・マジシャンとしての具体的な活動も
 教えていただきました。
 また、所属事務所も橋先生にお骨折りをいただき、
 中小ながらしっかりした事務所を
 紹介していただいております。
 つまりは、お陰様で
 この後はプロ・マジシャンとしてデビューするのを
 待つのみとなっております。 
 さて、この度、大前田先生にお願いしたいことは、
 私のステージのアシスタントを
 ご紹介いただきたいのです。
 突然、このようなお願いを申し上げ、
 誠に心苦しいのでありますが、
 どうか事情をお察しいただきたく、
 お願い申し上げます。
 
 実は、先日、ある先生から
 アシスタント候補となる女性を
 紹介していただきました。
 とある日の夕刻、経堂駅近くの喫茶店にて、
 その女性と待ち合わせをいたしました。
 『あ〜ら、貴方が下森さんなの?
  あたし、Aさんからお話いただいた
  美沙っていうのよ、よろしくね。
  で、あたしが望んでるのはね、
  なんていうのかしら、
  大人の男性がウットリしちゃうようなマジックを
  やりたいのよ、分かるでしょう?
  あとね、あれとこれとこんな‥‥』
 と、まるで私がアシスタントでもあるかのような
 話っぷりでありました。
 つまりは、私が望むアシスタント像とは
 まるでかけ離れたものだったのであります。
 私が望むアシスタントとは、
 それほど難しいものではありません。
 むしろ、単純明快そのものであります。
 あくまで美しく若い女性です。
 美しいと同時に可愛らしさももちろん必要です。
 ステージに登場したら
 すぐに注目を集めることが重要です。
 しかし、あくまで動作は控えめで、
 決して私の前に出しゃばったりしないことが肝心です。
 間違っても、私の前で
 ベラベラしゃべって笑いを取ったりするのは論外です。
 一切、しゃべりは必要ないでしょう。
 更に、楽屋では
 『貴方が世界で一番上手いマジシャンだわ』
 と、いつも励ましてくれる、
 そんなアシスタントが、どうしても欲しいのです。
 大前田先生ならば、
 必ずや私の望む女性アシスタントを
 ご紹介いただけるものと信じております。
 どうぞよろしくお願い申し上げます。
 敬具
 下森 高之」

若くて美しくて可愛くて、
いつも控えめで決してペラペラしゃべらず、
楽屋では明るく励ましてくれる女性となぁ。
そんな女性ならば、ふん、このワシが欲しいわい。

うん? 今ちょうどテレビにマジシャンが出とるわい。
ありゃりゃ、偶然にもこのマジシャンが、
この30年前の手紙の送り主ではないか、
うむ、なるほど、
マジック・チーム結成30周年のフェスティバルを
開催すると言うとるわい。
いやはや目出たいことじゃが、
はたして、アシスタントは誰になっとるんじゃ?
はれ? な〜んじゃ、若い女性どころか、男ではないか。
しかもまぁ、マジックよりも
この男のしゃべりが目立っとる。
よくもまぁ、次々としゃべくっとるのう。
と言うより、この男はしゃべり専門で
マジックはしないようじゃ。
これが現実のようじゃなぁ。
はぁ〜、なるほど人生とは
なかなかに思う通りにはいかんものじゃ。

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2007-09-09-SUN
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