MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

超能力者に会いたい!
いつもそう願っている。
超能力をこの目で見てみたい!
切にそう願っている。
なのに、なかなか私たちを満足させてくれる
超能力者は現れない。
ずっとやきもきしながらの今回、


『求む! 超能力者』


先日、いつものバーで飲んでいた。
すると、友人のひとりが実に感慨深そうにつぶやいた。
「いやぁ、この間テレビに出てた
 ロシアから来たという超能力の人、すごかったですよ。
 なんせ目隠しを何重にもしたのに、
 手のひらで文字を読んだのですから」
最近テレビ番組で、
超能力とか超常現象が再び取り上げられているようだ。
マジシャンという職業上からか、
どうにも猜疑心の強い私は
極力そういう番組は見て検証することにしている。
我々ナポレオンズはマジシャンである傍ら、
超能力バスターズとしても活動しているのだ。
先日の番組では、ある超能力者が
絶対に外から見ることの出来ない紙の中に書かれた漢字を
当てていた。
始めの実験の数回は外れた。
例えば紙の中には『東』と書かれていたのに、
透視した文字は『人』という具合に。
だが、この違いもなんだかちょっとした違いとして、
「惜しいですねぇ。
 文字の形は似ているように思えますよねぇ」
と、なぜか超能力者に好意的になってしまうのが不思議だ。
『東』という漢字と『人』という漢字が
たとえ形が似ていたとしても、
国語のテストだったら完全な間違いであるにもかかわらず。
しかし、さすがは超能力者、
最後は完璧に紙の中の文字を透視してしまった
(あくまで番組の中でのことだが)。
この透視実験には3時間以上の時間を要したらしい。
「出演者の皆さん、本当にご苦労様でした」
というほかはない。
ずいぶん以前のこと、
この透視能力を持つという超能力者の実験に
立ち会う機会があったが、
「この人たちは、超能力を否定している人たちです。
 立ち会いは拒否します」
と言われてしまい、
残念ながら実験を目の当たりには出来なかった。

何重にも目隠しをして
手のひらで文字を読むという超能力者には、
実際に会ったことがある。
ちゃんとロシアにまで出向いて、
しっかりと透視実験を検証出来たのだ。
始めに粘土で目を覆い、その上から布切れを巻き付け、
更に頭巾をすっぽりと覆った超能力者は、
私が書いた漢字を手のひらで読み取るという。
そうして彼が紙に手をかざした瞬間、
私は部屋の電気を消した。
と、すぐさま彼、超能力者の怒声が響いた。
「電気を消すな、と言ってます。
 見えない、と言ってます」
通訳の女性の、かなり動揺した日本語が聞こえてきた。
しかたなく電気を点けて、
「手で透視するのにも、やはり暗いとダメですか?」
という私の質問に、
「手のひらで、紙の上の微妙な光の反射を読み取って
 透視するのだ。
 だから電気は消すな、と言ってます」
さすが超能力者だ。
私をしっかりと指差して抗議している。
手のひらを私に向けていないにもかかわらず、
私の姿はしっかりと透視出来ているようだ。
様々な実験をしてもらった。
特に、公道を車で走る実験は大成功だった。
なんせ目隠しをしたまま、
車の窓の外に出した手をヒラヒラさせながら
数キロの道のりを走り切ってしまったのだ。
もっとも、対向車線から目隠しをして
手のひらをヒラヒラさせた怪しい車が迫って来ると、
ほとんどの車が慌てて避けてはいたが。
目隠しドライブの後、
車を降りて駐車場のあちこちにセットされた風船を
バンバンと割るという実験は失敗に終わった。
なぜなら、超能力者がそちらの実験は
すっかり忘れてしまったからであった。
超能力者も、時として忘れることもあるのだ。

超能力者の皆さんに、常に言われることがある。
「この二人のように猜疑心の強い人がいると、
 私たちの超能力が邪魔されてしまう」
超能力を封鎖してしまうほどの強い猜疑心を持つ私たち、
この猜疑心こそあらゆる超能力を不能にしてしまう、
最強の超能力ということなのだろうか。

このページへの感想などは、メールの表題に
「マジックを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2007-05-27-SUN
BACK
戻る