MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『ナポの30周年』


プロ・マジシャンとなって、
なんと30年目を迎えてしまった。
専修大学を可もなく不可もない成績で卒業し、
プロ・マジシャンの仲間入りをした。
プロ入りしてもなお、
可もなく不可もないマジックの数々を
考えたり演じたりして過ごしていたら、
もう30年目になってしまっていた。
25周年を迎えた際のナポレオンズの
キャッチ・フレーズは、
『大した芸もないのに四半世紀』
いやはや、見事にこれまでを言い当てたコピーであった。
本当に、面白いんだか面白くないんだか、
なんだか良く分からないマジックばかりを
好んで演じてきたように思う。
「こう言っちゃぁナンだけどね、
 大爆笑ってな感じじゃぁないけれども、
 まぁ、小笑いっていうようなね。
 いつも、へへへ、みたいな、そんな芸風だよねぇ」
近所のクリーニング屋のおじさんにも言われてしまった、
へへへ。

しかし、今度は30周年である。
大した芸もないのに、とか、
小笑いのへへへ、とか
言い続けられないような気もするのだ。
そこで慌てて、30周年を迎えるにあたっての
キャッチ・コピーを募集してみた。
『あったまぐるぐる 廻し続けて30年』
『くるくる回って30年』
『なにがすごいか分からない? 30年がすごいんです』
『どことは言えないが、なんだか凄くて30年』
『このマジックは奇跡、話術も奇跡、30年も奇跡』
『頭廻してタネ隠さずで30年』
『大胆かつわかりやすいマジックで30年』
『驚異の頭廻し 前人未到の世界に挑戦』
やはり、30年という年月の重さと、
代表作が『あったまぐるぐる』という
芸の軽さを表現していただいているようだ。
寄せていただいたコピーを眺めつつ、
未だに決めかねている私である。

我々ナポレオンズのほぼ同期のマジシャンに、
藤山新太郎氏がいる。
氏は近年、日本に古くから伝承されているマジック、
和妻に取り組んでいる。
一片の和紙を蝶々に見立て、
まるで生きているかのように宙をヒラヒラと舞わせる。
それは見事な芸である。
また、途中のおしゃべりがなんとも味わい深い。
「最近はお陰様で、
 この芸であちこち評判をいただいております。
 まぁ、なんせご覧いただいた通りの、
 紙のみを使った芸。
 いうならば紙だけで仕事をしている、
 立派なペーパー・カンパニーでございます」
パチパチ! あははは、大爆笑!
先日も藤山氏と一緒に公演する機会があった。
その日のお客様に合わせてマジックを選ぼうとする我々は、
あれやこれや直前まで
どのマジックにするか逡巡するばかり。
対して藤山氏は、
「私はなにも変えないよ。
 どんなお客様であっても、
 私の見ていただく芸は決まっているよ」
実にいさぎよい、堂々たるものである。
「これまで真剣に芸道に精進してきたからねぇ。
 ホラ、お陰で髪の毛がずいぶんと薄くなってしまったよ。
 毛が薄くなったのは、これまでの努力の証なんだよ」
氏はちらりと僕の頭を見ながら、
「あんたはずいぶん毛がフサフサしてるなぁ。
 お気楽な芸をしてると、毛も薄くならないんだねぇ」
確かに、藤山氏の薄くなった頭部も
風格の一部のように思えてしまうから不思議だ。
我々ナポレオンズは
(社)日本奇術協会の広報委員、
簡単に言うと平会員である。
対して藤山氏は我々とほぼ同期、
同年代のマジシャンであるのに、
現在は副会長という重責を担っておられる。
芸道に精進すると同時に、
(社)日本奇術協会の様々な責務をこなされてきた。
ひょっとすると、氏の髪の毛を奪い続けているのは
(社)日本奇術協会の重責なのかもしれない。

30周年を迎えるにあたって、
私も遅ればせながら芸道に精進しようと思う。
30年といってもやっと予選を通過したに過ぎず、
いよいよこれから人生の決勝戦が始まるのかもしれない。
負けたくないが、できれば毛髪も失いたくない。
『いい年こいて、くるくる廻るふっさふさ』
そんなコピーが脳裏に去来する、30年目の私である。
皆様、今後ともどうぞよろしくお願いします。

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2007-04-25-WED
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