MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

マジシャンの恋


マジシャンも人並みに恋をする。
だが、一般の人と少しだけ違うのは、
自分がマジシャンであるということである。
好きになった人を前にして、
思い切ってマジシャンであることを告白をしてみる。
「マジシャンって? あの人を騙してる人?
 きゃ〜、助けてぇ〜、ダマされるぅ〜」
詐欺師と間違えられたりして。
こんなリアクションをされたりすると、
その時点で早くも恋は終焉を迎えている。
出来ればマジック、あるいはマジシャンに
好意的な人が理想である。
だが、
「それならこ〜してあ〜すれば、
 ホラッ、不思議でしょ!」
なんて自分以上に上手い人は困る。
理解はあっても口は出さず
黙ってマジシャンの出したハトを
受け取ってくれる人がいい。
なんだか欲しいのは恋人なのかアシスタントなのか
分からなくなるのだが。
更に言うと、
「私のこの人が、世界でいちばん素敵なマジシャンだわ」
と固く信じてくれる人。
逆に、まったくマジックに関して
知識のない人っていうのも好い。
ちょっと頭ぐるぐる廻しただけで、
「えぇ〜? どうなってるのぉ?」
なんてビックリしてくれる人。
それとは正反対に、
「今日のあれ、とっても良かったわよ。
 特にエルムズレー・カウントが
 ボトム・コントロールされて
 ジャリがインビジブルでシャッフルだったわね」
などと完全に技法を見破った上に
微笑するようなマニアックな人もいいかもしれない。

美しい女性マジシャンの恋人兼アシスタントになりたい、
なんていう男性マジシャンもいたりする。
美人マジシャンが出現させたステッキを受け取り損ね、
「バカッ、何やってんのまったく。
 このウスノロッ、出来損ないっ、
 グリグリしてやるっ!」
なんてお仕置きに、
ヨロコビのあまり恍惚となったりして。

あれこれあって結婚したマジシャン、やがて、
「ちょっとさ、トランプ一枚引いてくれよ」
「またぁ? 嫌ですよ」
「いいから引いて覚えてくれよ。
 当てるんだから」
「はいはい、引けばいいんでしょ。
 はい、引きましたよ」
「ふむ、それはハートの8だ!」
「残念、ダイヤの9でした、ほほほほほ」
「そんなはずはないっ。記憶違いだっ!」
「いいえ、ダイヤの9ですっ!」
「ハートの8だっ! それ以外にないっ!」
「もう、面倒ねぇ。いいわ、ハートの8でも」

『ハートの8でもいいわ』では悲し過ぎるではないか。
出来ればこんなふうに進行してほしいのだが‥‥、
「貴女に、カードを選んでほしいのですが」
「はい、私でよければ。どれでもいいの?」
「貴女のカードは‥‥ハートの3、ですよね?」
「そう! なぜ分かるのかしら? 不思議だわ」
「なぜって?
 僕は貴女のことは何でも知りたいのです」
「では、私の心も読めていらっしゃるのかしら。
 ふふふ」

そんな素敵な恋のシーンを、いつも夢見ている。
それゆえに、マジシャンの恋はなかなか成就しない。

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2006-09-18-MON

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