MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『ウルトラマンさんとの、夏』

数年前の夏、我々は某企業の夏祭りのゲストに指名され、
千葉のある町に行った。
大きな広場にテントやステージが設営され、
にぎやかな音楽が会場いっぱいに鳴り響いていた。
ウルトラマン・ショーの後、我々のショーがあり、
その後は一般参加者たちによるカラオケ大会になった。
審査員は我々ナポレオンズ、
審査委員長はウルトラマンであった。
仮設のステージで、皆さん元気良く歌い始めた。
「さて、審査委員長のウルトラマンさん、
 いかがだったでしょうか?」
審査委員長のウルトラマンの応えは、もちろん、
「シュワッチ!」
なのであった。
意味は分からないが、それで観客は大喜びなのであった。
続いて2人目の歌の途中、
いきなり審査委員長に異変が起きた。
なんだか頭がフラフラと揺れたかと思いきや、
ガックンとテーブルに突っ伏してしまったのであった。
あのウルトラマンが倒れてしまったのだ。
ただでさえ暑い夏の午後、しかも野外でのカラオケの審査、
さすがのウルトラマンにも荷が重かったのであろう。
しかし、幸いにもウルトラマンは
屋内の控え室に運ばれて息を吹き返した。
水分を与えられ、身体をクール・ダウンしてもらうと、
何事もなかったかのように元気になった。
「いやぁ、すいませんでした。
 なんだかね、自分でも知らないうちに
 ガクンとなっちゃって。
 ホント、直前までなんともなかったんだけどなぁ。
 皆さん、本当にごめんなさいね、シュワッチ!」
やはり、ウルトラマンさんのカラオケ審査は
3分が限界らしい。

ある夏の午後、
名古屋市内の公園でウルトラマン・ショーが催されていた。
3日連続公演で、ゲストは我々ナポレオンズ、
よくは分からないが、
ウルトラマンさんのショーと我々のマジックとは
相性が良いのだった。
初日が無事に終わり、
ウルトラマンさんや怪獣の皆さんとの打ち上げがあった。
ウルトラマンさんが怪獣さんにビールを注ぎ、
怪獣さんは、
「こりゃどうも、いやはや」
なんて言いながら、美味しそうに飲み干していた。
明けて2日目、昼近くに会場入りしたのだが、
先に来ていたウルトラマンさんたちの様子がおかしい。
聞いてみると、
なんとウルトラマンさんのコスチューム一式が
見当たらないというのだ。
舞台裏に設営された部屋に、
登場者の衣装、小道具、
その他あらゆるものがきれいに整頓され並べられていた。
その中から、ウルトラマンさんのコスチュームだけが
消えてしまっているのだ。
これまで幾多の試練に立ち、
多くの難敵を撃破してきたウルトラマンさんも、
まさかコスチュームを奪われてしまうなどとは
想像さえしていなかったに違いない。
ウルトラマンさんはしばし(3分)黙考した後、
「東京からコスチュームを持って来てもらうとしても、
 今日のショーには間に合わない。
 仕方ない、私はステージの裏から声だけ出演します」
ウルトラマン・ショーが始まった。
途中から入れ替わり立ち代わり登場する怪獣たちが、
なぜか今回は始めからステージに出て暴れている。
しかも、普段ならチカラを合わせて
ウルトラマンに向かう怪獣たちが
仲間割れして戦ってしまっている。
昨夜、仲良く飲み交わしたことなど
宇宙の彼方に忘れ去ってしまったかのように
押し合いへし合い、
投げたり投げられたりしているのであった。
そんな混迷の中、ウルトラマンさんの声が切なく響いた。
「みんな! ウルトラマンです! ゴメン!
 明日まで待ってくれ!」

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2006-08-22-TUE

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