MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『夏』

7月のある日、横浜に行った。
桜木町駅近くの寄席、にぎわい座で開催される
『三遊亭好楽・王楽、ナポレオンズW親子会』
への出演のためである。
三遊亭王楽さんは三遊亭円楽師匠の弟子であり、
好楽師匠のご子息である。
また、好楽師匠の弟子となった三遊亭かっ好さんは、
ナポレオンズのボナ植木の息子である。
そこで二組の親子の共演、
W親子会が企画されたのであった。
当日、横浜への移動の車内で、
「かっ好だけどさぁ、今日は何させたらいいのかねぇ。
 あんたから何するのか説明してやってよ」
と、かっ好の父親の顔をしてボナ植木が言う。
「オレが言っても、なんかさ‥‥」
父と息子、同じ演芸界の先輩後輩という関係の親子には、
やはり他人には説明のつかないものがあるのかもしれない。
寄席が始まり、まずは三遊亭かっ好の出番となった。
出し物は『鰻屋』、短いような果てしなく長いような、
15分間の熱演であった。
技とか芸とか、あるいは間、そんなことはさておき、
まずはゴール目指して一直線、といったところであろうか。
父であるボナ植木は、
アシスタントにMDレコーダーを渡して
息子の高座を録音している。
自分で聴いてみるのか、
先輩として息子への助言に使うのだろうか。
いずれにしても、
落語家となった息子との緊張の一日となった。

前田知洋くんが生放送のテレビに出ている。
途中、我々ナポレオンズのメッセージVTRが流された。
放送日の数日前、
「前田さんについて、メッセージを寄せてほしいのですが」
前田くんの素晴らしさを
大勢の皆さんに伝えられるチャンス!
私は意気込んでカメラの前で語った。
「前田くんは、クロース・アップというマジックの分野を
 メイン・ディッシュにまで高めたマジシャン」
「ジェントルマンの顔をして、
 悪魔のような不思議を造り出すマジシャン」
あれこれ言葉を尽くした。
生放送が始まってすぐ、いよいよ私のメッセージが‥‥。
「前田くんが、仕事の帰りにいつも僕にぼやくんですよ。
 だから、僕は前田くんの『ぐち壷』と云われています」
画面が切り替わって、前田くんのアップになった。
明らかに困惑していたようだったが、
すぐさま軽やかにかわし、
的確な言葉で我々ナポレオンズを誉めてくれた。
すまん、すまん。
そうして、前田くん、ありがとう、ありがとう。

愛知県の犬山市に行った。
文化会館大ホールでの
『ナポレオンズ・マジック・ショー』への出演であった。
今回は、ゲストに瞳ナナさん、
北見伸&ステファニーの皆さんを迎えてのショーであった。
犬山市は、私の故郷から車で1時間ほどの距離である。
そこで、岐阜に住む父母が、
私の姉と姪に連れられてやってきた。
開演の3時間も前に、父母ご一行は会館に到着した。
なんだか分からなかったであろうスタッフの皆さん、
出演者のひとりひとりに挨拶をする両親であった。
あるスタッフの方から、
「ご両親は、
 ちゃんと観覧希望の応募葉書を出されてたんですよ。
 抽選で当たって、入場チケットをゲットされてますよ」
見せてもらった応募葉書には、
『ナポレオンズの父母です』と書かれていた‥‥。

ベテラン・マジシャンの息子がいつの間にか、
どういう訳か落語家という人生を選んだ。
ずっとずっと心配していたマジシャンが、
今日はテレビの中で眩しいばかりに輝いている。
年老いた両親が、相変わらずの元気な様子で
私のステージを観に来てくれた。

私は心の中でひとりごちた。
「こんな夏って、いいなぁ」

このページへの感想などは、メールの表題に
「マジックを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2006-07-26-WED

BACK
戻る