MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

『拝啓 M君へ』

その後いかがお過ごし?
先日のあれこれの話の中で、
君宛の中傷メールが相変わらず多いそうな。
まったく困ったものだね。
でも、考えようによっては、
君がそれだけ注目に値するマジシャンであるってことだよ。
視聴率1%が100万人に相当、
すると視聴率20%などというと2000万人!
その内の80%が好意的な意見の持ち主、
残りの20%が、なんらかの不満を抱くとすると、
400万人が「ちぇっ」とか
「俺の方がずっと巧いのに」と思う。
またその内の20%が
「メールを送って思い知らせてやろう」と思い実行すると、
80万人からの中傷メール!
まさか80万ものメールは来てないと思うけど。
君へのメールの多くが、
「俺も同じカード・マジックが出来るぞ」
というもの。
カード・マジックの出来不出来はともかく、
君と同じくらいカッコ良ければいいのだけれど。
コント界の重鎮、
チャーリー・カンパニーの名言を思い出すよ。
「人間はなぁ、外見じゃぁねぇぞ。
 人間はなぁ、見た目だ」

僕らの頃は、幸か不幸かまだパソコンなんてなかったから、
中傷の仕方もアナログでね。
せいぜい公演のポスターに落書きされたりするだけだった。
それも「バカ」とか「大したことしないくせに」とか、
かなり的を射てるような内容だったりして。
デジタルの時代になっても、
「俺の方がもっと頭ぐるぐる回せるぞ」
というメールはまだ1通もない‥‥。

このところ、あちこちに出掛けて
芝居や高座を観る機会があったよ。
様々なジャンルの人たちのすごい芸を目の当たりにして、
我が芸の拙さに落ち込んだりするよ。
でも、慰められるような芸より
落ち込まされる芸を観る方が有意義だと思う。
時には、ゆるゆると酒でも呑みながらの
たわいない芸も楽しかったりするけどね。
『勝ち組』『負け組』などという言葉を聞くよね。
マジシャンの世界はどうなんだろう?
君がテレビのスペシャル番組に出ている。
その奇跡のような現象の不思議さに、
観客たちは魅了され、驚き、羨望のまなざしを隠さない。
その瞬間、君の意識の中に
『勝ち組』などという意識などないと思う。
でも、その映像を見つめている多くのマジシャンが、
苦い思いや敗北感のようなものを
抱いてしまうかもしれない。
望むと望まざるに関わらず、
ひとつの才能が輝きを増した瞬間、
たくさんの敗者を造り出してしまうのかもしれないね。

以前、ある先輩マジシャンに言われたこと。
「マジックを愛してる人が、良いマジシャンだ」
先輩は僕にコインを渡し、
「このコインを使ったマジックのテクニックの善し悪しで、
 君がどれほどのマジシャンか視てやるよ」
僕は困惑するばかりだった。
あれからずいぶん時が過ぎて、今はこう思う。
「マジックから愛されている、
 それが良いマジシャン」

マジックの女神に愛される気分は、どうだい? M君。

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2006-02-16-THU

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