MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。
烏カァと鳴いて2004年が明け、
またたく間に正月も過ぎてしまいました。
皆さんの年末年始はいかがだったでしょうか。
マジシャンの年末年始と言えば、
こんなことがありました・・・。
そこで今回のお題、


「マジシャンの年末年始」


12月31日、大晦日の夜、私は○○○にいた。
○○○ホールに入り、ある歌手の出番を待っていた。
アイドル男性歌手のMは、
全国に生中継されるあの○○歌合戦という大舞台で
『瞬間移動』という大イリュージョンに
挑戦しようとしていたのだった。
Mが、自身の大ヒット曲をワン・コーラス歌う。
その後の間奏の際に、Mは小さな箱に入ってしまう。
箱はステージ上方に吊り上げられる。
突然、その箱が大音響とともにバラバラに壊れてしまう。
Mは、アイドル歌手Mはどうなってしまったのか?
客席が若い女性ファンの悲鳴で揺れるようだ。
するとその瞬間、箱の中から消えてしまったはずの
アイドルMがホールのはるか後方に現れたではないか!
にこやかに微笑み、ツー・コーラス目を歌いながら、
Mはステージに向かう。
アイドルMに、数えきれないほどの手が伸びてくる。
彼はやっとステージに戻り、最後のフレーズを歌いきる。
大きな拍手とどよめきが、ホールに響き渡った。
この演出を我々ナポレオンズに依頼したのは、
今年のメイン・スタッフのひとり、
Aディレクターであった。
「ナポレオンズさん、大晦日にはご苦労様ですが
 ステージ袖に待機しててくださいね。
 なんと言ってもこのイリュージョンが成功するかどうかは
 ナポレオンズさんに掛かってますからね」
なにはともあれ、無事に終わって良かった。
我々はステージ袖で胸を撫で下ろしていた。
そこへ、総合演出のプロデューサーである
B氏がやってきた。
「いやぁ、良い演出効果だったよ。ご苦労さん。
 A君、君に任せて良かったよ、あっはっは」
「けっこう苦労しましたけど、なんとか巧く行きました。
 これからも、がんばります」
プロデューサーは、拍手をしながら去って行った。
Aディレクターが、思い出したように我々を見て言った。
「もうOKですよ、お疲れさまでした」
ホールの外は、中の喧騒が嘘のように静かだった。
その静けさの中で、私は思っていた。
「生中継が始まってしまえば、
 アイドルMが上手くやってくれることを祈るしかない、
 何かトラブルがあっても我々に出来ることなどない。
 指導したのは間違いないけど、
 我々ナポレオンズがステージ袖にいなければならない
 必然性って、なんだろう? 」

またある年の12月31日、大晦日の夜、私は○○○にいた。
○○○ホールに入り、ある歌手の出番を待っていた。
アイドル女性歌手のNは、
やはりあの全国に生中継される○○歌合戦という大舞台で
『瞬間出現』という大イリュージョンに
挑戦しようとしているのだった。
ステージには、なんのヘンテツもない
三面鏡が置かれている。
ダンサーが歩み寄り、三面鏡を閉じる。
それをキッカケにしてアイドル歌手Nの、
あのミリオン・セラー曲のイントロが流れる。
だが、ダンサーたちがすぐに三面鏡を再び開けてしまう。
すると、なんとあのアイドル女性歌手Nが
三面鏡の中に出現している!
そんなトリック、イリュージョンを持ち込んだ我々は、
ステージ袖での待機を依頼されていた。
私は固唾を呑んでこのイリュージョンの成功を
待っていたのだが・・・。
まだイントロも聞こえてこない。
なのにまさかの悪夢、アイドル女性歌手Nが
秘密の扉を開けてステージに出てきてしまったではないか!
生放送の画面に、決して明かされてはならないはずの
秘密の扉がしっかりと捉えられ、
全国に中継されてしまった。
しかも、突然にステージに出てしまった
アイドル女性歌手Nの動揺ぶりが、
あますところなく全国に生中継されたのであった。
この演出を我々ナポレオンズに依頼したのは、
またまたメイン・スタッフの一員、あのA氏であった。
練習もリハーサルもこれ以上は無理と言うほど練習を重ね、
その結果がこの有り様なのであった。
しかしまぁ悔やんでいてもしょうがない、
生放送の怖さを噛みしめる我々であった。
プロデューサーB氏がやってきた。
「おいAよ、なんなんだこれは。
 いったい、何なんだこれは」
突然Aディレクターがバタバタと我々に駆け寄り、叫んだ。
「今回のマジック演出担当、ナポレオンズさんです!」

ホールの外は、中の喧騒が嘘のように静かだった。
静けさの中をトボトボと歩いていると、
いつの間にか新年がやってきていた。

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2004-01-18-SUN

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