MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

「小石さ〜ん」と声を掛ける紳士がいた。
はて、どこかで会った人物ではあるが、一体誰だっけ。
こんな経験は誰しもあるのではないでしょうか。
私はなるべく動揺を見せぬようにして、
「あぁ、どうもご無沙汰しております」
などと、探りを入れてみた。
すると、
「やだなぁ、小石さん、
 敬語なんか後輩に使っちゃって」
そうです、学校の後輩だったのですが、
あまりの貫録にすっかり間違えてしまったのでした。
てなわけでお送りする今回、題して


「間違えるよ、これじゃ」


「明治の暮らし村」というところに行った。
広い敷地内に色々な観光スポットが点在していて、
その隅にポツンとあった。
「明治の頃の農家を再現しています。
 水車が廻り、にわとりがのんびりと
 エサをついばんでいます」
なかなか良さげではないか、
私たちはさっそく自動販売機にコインを入れた。
料金は300円であった。
引き戸を開けると土間のようになっていて、
その横に2畳くらいのスペースがあり、コタツがあった。
そこに、かなり年配のの老人が座っている。
モギリの人だろうか。
「こんにちわ」
声を掛けてみたのだが、
老人はぼんやりとしているばかりだ。
もう一度大きな声を掛けると、
ゆっくりと奥の引き戸を指した。
どうやらあの戸の向こう側に
明治の暮らしが再現されているのだろう。
中には大きな池があり、カモなどが泳いでいる。
左側に水車が見えた。
確かに、懐かしい日本の田舎の景色だ。
しかし建物は新しくしっかりしていて、
なんだかプラスティックのジオラマを見ているようだ。
20分ほど散策して入り口に戻った。
老人は相変わらずぼんやりとして、居た。
「なんだかさぁ、みんな偽物っぽかったよなぁ。
 本物の明治なんてあったのかなぁ」
私のつぶやきに、同行していた友人が、
「あったよ。本物の、明治のおじいさんが」

いつの間にか眠ってしまったらしい。
新幹線はすでに名古屋駅を通過していた。
ガラガラだったはずの車内が、かなりの人で埋まっている。
前の席に、賑やかな家族連れがいた。
中年の夫婦と、その娘さんたちのようだ。
良く通る声であれやこれや、
話題はとぎれることなく続いている。
続いているのは会話だけではなかった。
私が目を覚ました時、家族たちは幕の内弁当を食べていた。
あっという間に食べ終えると、
今度は手作りという巻き寿司をバクバクと食べ始め、
「カツ・サンドもあるわよ。
 パパ、あなたが食べたいって言うから買ってきたのよ」
パパが食べ始めると、
ママも娘2人も食べ始めたではないか。
新神戸に到着するまで
ひたすら食べ続ける家族であった。
「さぁ、やっと着いたわよ。忘れもの、しないでね」
座っている時には分からなかった、
皆身長2メートル、体重100キロを超えているような、
4人の大家族が降りていった。
新幹線が揺れたような気がした。

アシスタントのNが、空港の到着ゲートにいた。
我々の荷物をピック・アップするべく、
ターン・テーブルの一番前に陣取っている。
出てきた我々の荷物を、
ターン・テーブルから降ろして相棒のBに渡す作業を
黙々と続けていた。
Nの後ろにいたおばあさんが、
「私の荷物は、これだから・・・」
と、荷物の引換えタグをNに渡した。
おばあさんは、アシスタントNを
ターン・テーブルから荷物を降ろす空港職員と
思い込んでしまったのだった。

美容院に行った。
ある重要人物に、某有名カリスマ美容師のいる美容院を
紹介することになったのである。
紹介者兼付き添いであった私は、
その重要人物がカット&カラーをしてもらっている間、
アール・デコ調の椅子に座ってじっと待っていた。
カット&シャンプーを終えて
カラー液を塗られた重要人物が、隣の椅子にやってきた。
しばしの間カラー液をなじませるのであろう。
私は重要人物を退屈させないよう、
テーブルにあったタロット・カードで占いを始めた。
「貴女の未来は輝かしく美しく、
 現在進行中の恋愛は益々・・・」
大いに盛り上がっていると、
後方の女性が声を掛けてきた。
「占いさん、次はあたくし、お願いするわ」
占い師に初めて間違われた瞬間だった。

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2003-07-31-THU

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