MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

「自分の仕事に誇りを持っていますか? 」
などと問われたら、
「もちろんです! マジシャン以外の人生なんて、
 考えたことすらありません。まさに天職です」
なんて言い切りたいのだが、
どうにもあれこれ他の分野に目が行ったりして。
あれがいいのか、それともこれかの今回、題して


「となりの芝生」


歌手はいいよなぁ、
だって歌がヒットすればCDが勝手に売れるんだから。
本人は寝ていたって、
お金が向こうから団体で歩いて来てくれる。
どんなに長い歌だって
せいぜい5〜6分、ずいぶんと短い労働で汗かく暇もない。
マジック・ショーで6分しかやらなかったら、
怒られてしまうもんなぁ。

俳優はいいよなぁ。

なにも要らない、
必要なものはぜんぶ制作する側で用意してくれる。
衣装もメイクも、ヒゲだってカツラだって、
食事もホテルも、なんだって向こう持ちなのだ。
それでいてギャラと台本までいただける、
やめられませんよ。
マジシャンはなんでも自前である。
制作側に
「マジック用のハンカチと白いハトを5羽、
 用意しておいてください」
なんて、はり倒されてもいいから
一度頼んでみたいものだ。

ダンサーはいいよなぁ。
なんせ苦労してダイエットする必要がない。
踊っていること自体がダイエットそのもので、
なおかつそれが仕事になっているのだから。
踊り終えたあとには、
きっと爽やかな汗とともに心地良い気分になることだろう。
太ってしまったマジシャンなんて大変で、
ただでさえ狭くて窮屈なネタの箱に入るのが
大変になってしまう。
爽やかな汗の代わりに脂汗、
心地良い気分どころか
おう吐してしまいそうになったりして。

ミュージシャンはいいよなぁ。
ほとんどのミュージシャンは座ってられるんだから。
綺麗な歌手の歌をタダで聴けて、
普通は見られないスターの後ろ姿なんかを
楽しんでみたりして。
マジシャンと同じくらい指先は
器用に動かさなければならないけど、
ずっと立っている必要はない。
楽器が必要だけど、
ギターやってピアノやってお次はドラム、
なんてわけはなく、
どれかひとつをマスターすればいいしなぁ。
ひとネタだけ、ひたすらロープだけの
マジシャンなんて仕事になるわけがないもんなぁ。

漫才師はいいよなぁ。
ただしゃべってればOKなんだから。
二人でしゃべるだけだから、
お客に合わせたり途中で話題を変えたってかまわない。
その場その場でネタをやり繰りして、
つまりは観客のニーズに的確に応えられるのだ。
マジックのネタって、色々都合がありすぎる。
だから始めからきちんと順番通りにやるしかない。
お客がどうだろうと気分が変わろうと、
決められた手順でいくしかないんだよ。

コントっていいよなぁ。
衣装はなんだっていいのだから。
コントの内容によっては様々な衣装を着られるし。
ひょっとすると衣装だけで笑いをとれることだってある。
マジシャンの衣装は複雑なネタが付いていて、
ずっとそれ一着で過ごしたりして。
マジックに適していてそれでいてオシャレな衣装なんて、
デパートで売ってないもんなぁ。

落語家はいいよなぁ。
柔らかいザブトンの上で仕事ができるのだから。
男も女も、武士も商人も、大人も子供も、
ひとりで何役も演じられて、
それなのにギャラはひとりで持っていく。
大ネタをやるマジシャンなんて、
跳んだり跳ねたりの肉体労働そのものだ。
しかも大ネタには数人のアシスタントが必要で、
彼らへの支払いも少なくはない。
それをケチってひとりでやる大ネタなんてありえないのだ。

ジャグラーはいいよなぁ。
色々と道具を扱わなければならないし、
指先の訓練もしなければならない。
だけどタネがバレないか
心配する必要がまったくない。
タネのバレてしまった
マジシャンくらい悲惨なものはない。
ヤジ、蔑み、幻滅、それらの地獄へのフタは突然に、
しかも簡単に開いてしまうのだ。

それでもずっと私はマジシャンを続けている。
なぜだろう?
やっぱり私にはマジシャンがいちばん、なのかもねぇ。

2003-05-29-THU
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