MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

「続・ホテル」


マジシャンという職業は国を選ばない。
どこでも、望まれれば
行ってチャララララ〜ン、である。
さぁ今宵はどの国の、どこの街で・・・。

「パリ郊外のホテルにて」
パリ郊外のプチ・ホテル、なんていうと
すごく良いイメージが浮かんでしまう。
でも、かなりプチプチであった。
ベッドもトイレットも、
なんだかオモチャのようにプチであった。
しかしまぁ、これが女の子だと、
「キャー、ステキ! 可愛い! 」
なんてことになるのだろうが、
男一人ではただ寂しいばかりだ。
今回の旅は、パリ郊外のスタジオで収録される
バラエティー番組に参加するためであった。
収録自体は一日で終わるのだが、
事前の打ち合わせやリハなどで4泊となった。
その代わりスケジュールは割とゆったりしていた。
遅い朝食をいただこうと
ホテルのレストランに降りて行く。
他の客は出掛けてしまったらしく、ガランとしている。
フランスのホテルでの遅い朝食となれば
キャフェオレ、クロワソン、
それにオムレットだろうと注文した。
しかし出てきたオムレット、これがまぁすごい、
一度フライパンからどこかに落としたんではなかろうか、
というようなすごい出来。
しかもコゲがかなり遠慮ない。
それでもまぁガマンした。
2日目、今度こそは大丈夫だろうとオムレットを頼んだ。
だが、今回のオムレットも何の反省も見せない。
むしろ退化しているかもしれない。
3日目、思いきって自分で作ってもいいか?
と頼んでみた。
意外にもアッサリと
「ウィ! 」
我ながら素晴らしいオムレットが出来た。
白い皿に乗せてケチャップ
(フランス語でもケチャップはケチャップだった)を少し、
美味しそうだ。
シェフがテーブルにやってきて、
「トレビアン! 」
シェフよ、その言葉はおいらが言いたかったよ。


「イタリアの美しいホテルにて」
イタリアの秋は美しい。
石造りのホテルは、秋に埋もれるように佇んでいた。
好い男と好い女しかいないロビーは、
なんだかヒンヤリと静かだ。
ヒラリ、ヒラリと舞う落ち葉のように、
人々の動きもゆったりとしている。
部屋の窓から中庭が見える。
中央にプールがあり、シニョーレが落ち葉を拾っている。
ゆっくりゆっくりと。
でもそれ以上に降りかかる落ち葉が
彼の仕事を無駄にしている。
それでも彼は落ち葉を拾う。
ゆっくりとゆっくりと意味のない時が流れる。
終わることのない、何の意味もない時が、
彼の周りで過ぎてゆく。
この世の中で、
いちばん無為の時が過ぎてゆくようであった。
(後になって気付いた、
 その光景をずぅ〜っと見ていた私こそ・・・)


「中華料理店のあるホテルにて」
外国では、ホテルのレストランで
食事をすることが多い。
時間にゆとりのない旅の場合はなおさらだ。
バルセロナのホテルに中華料理店があった!
これは意外と珍しいことで、夕食時にのぞいてみた。
美味しそうな料理を運んでいるのは、
皆中国人のようだ。
頭に舌に、忘れていた中華の味が戻ってくる。
ためらうことなくドアを押して中に入った。
親し気な笑顔から発せられたのは、
もちろんスペイン語、当然である。
テーブルに着いてメニューを手にする。
すべてスペイン語で書いてあり、
漢字などどこにもなかった。
同じ東洋人である顔に甘えて、
つい言葉が通じるような気分になってしまうのだが、
彼らの年令を考えると
二世か三世であってもおかしくはない。
言葉はネイティブなスペイン語のようだ。
それでもメモ用紙に漢字で「麺」などと書き、
見せてみた。
すると、彼はそのメモを手にして店の奥に消えてしまった。
何が起こったのかさっぱり分からないまましばらくすると、
奥から白髪の老人、老婆が出てきた。
彼らは中国語を話した。
その言葉は理解できないものの、
老人たちが持ってきてくれた古いメニューは
とても分かりやすい漢字のメニューだった。
きっと老人たちがまだ店で現役だったころ、
使っていたメニューなのだろう。
古くてシミだらけのメニューだが、
老人たちの人生そのもののようだ。
漢字メニューのお陰で、
思い通りの料理を食べることができた。
美味しかった礼に持っていた小ネタを見せていると、
他のテーブルの客も寄ってきた。
店内は思わぬにぎわいとなった。
老人がお猪口を持ってきた。
酒が入っていて、呑みなさいというしぐさをする。
呑み干すと、お猪口の底に紅色の
「福」という漢字が残った。

2002-11-28-THU

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