MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

「マジックをまなぶ」


以前、若手俳優Kくんに
マジックを教える機会がありました。
ドラマの中で、彼はマジック修行中の旅人。
同行する女の子との淡い恋心、時折訪れる無言状態。
そんな時彼は考えたマジックを彼女に見てもらい、
互いに嬉しそうに会話が弾み出すのでした。
本当に微笑ましい、マジックっていいなぁと思わせます。

制作会社の応接室でさっそく練習ということになり、
数種類のマジックを教えました。
とても飲み込みの良い若者で、
たちまちマスターしてしまいました。
2時間程の特訓が終わり、彼がしみじみ呟いたのです。
「いやぁ、マジックって頭使うんですねぇ」
更に、
「こんなに頭使うなんて、思ってもみませんでしたよ。
 ナポレオンさんも頭使ってるんですねぇ、
 あっはっは!」
こんな悪気のない、でもミもフタもない意見を聞いたのは
初めてでした。
大笑いしてしまいました。

「頭を使ってないように、
 アホなように見えるように演技してるんだよ。
 その点、誤解のないようにね」
「ナポさんて、役者だったんすね。
 でも、本当に指先は使うけど
 あれこれ考えながらっていうのは思ってもなかったです」
そりゃまぁマジックといえば手先の技術、
ひたすら指先のテクニックを研けばOK!
てなイメージなのかもしれない。
でもね、実際には指先の訓練ももちろん重要だけれど、
ただ指先だけ器用に動けば頭はぼんやりしてていい、
とはいかないのだよ、K君。
とはいっても、あんまり頭が良い人にも
我々ナポレオンズのマジックは不向きかもなぁ。
ほどほどアホじゃないとね。

アメリカには
マジシャンを養成するための専門学校が存在していて、
その学校の先生に
少しだけ教えていただいたことがあります。
驚くことに内容のほとんどが理論なのです。
「マジシャンとは、いったいどのような人物であるべきか」
等々、まるで人生訓のよう。
考えに考えた上でマジックを演じなければならない、
頭をフルに使わなければマジシャンではない(耳が痛い)
と言い切ります。
それらを構築できた後に、やっとルーティン
(最初から最後までのマジックの順序、流れ)を
考えるのです。
レクチャーを受けて、
「へぇ〜、マジックって
 そんなことまで考える必要があるのかぁ。
 頭つかうんだぁ」
なんのことはない、
我々もK君と似たようなものだったりして。

マジックの道具は
デパートで売っているくらいで手に入りやすいものだし、
専門店も全国に多く存在しています。
また、どこの本屋さんにもタネ明かし本があるはずです。
「インコの飼い方」とか
「よく当たるタロット占い」とかと同じ棚に、
多ければ5、6冊並んでいます。
ネタを買って本を読みちょこっと練習、
マジックをマスターするのは
それほど難しいことではないはず。
数万人ともいわれる
アマチュア・マジシャン人口のの多さが、
それを物語っています。
そんなアマチュアの中から、
季節を問わず数人の弟子入り志望者が出てきます。
熱心な人とは会って話をすることもあります。

でもね、プロとなってそれで生活していくとなると、
あまりマジシャンの理想ばかりを
述べてばかりもいられない。
時にはかなりアホ度の高いことも
(実はアホ度の高い方が得意だったりして)
しなければならないのです。
指先はちょこちょこと、頭はちょこっと、
これがプロ・マジシャンの極意かもしれません。

K君にマジックの極意を伝授したドラマは
感動的に仕上がりました。
放送後、制作会社のディレクターから電話があり、
出掛けました。
居酒屋で一杯やっての帰り道、電柱の陰で小声で、
「そういえば小石さん、この間のマジック指導料、
 さっきの呑み代でってことで・・・」
いやぁ、ドラマって意外と予算が少ないっすねぇ。

2002-09-08-SUN

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