MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

ライバルがいるからこそ、がんばってしまう。
なんてことがありますよね。
我々にもたくさんのライバルがいてくれました。
大先輩も大後輩も、より良き我らのライバルだよの今回、


「Y兄弟」


くどいようだが、我らナポレオンズは
デビューして25年目の偉大なマジシャン・デュオである。
しかも、これまたくどいようだが
大した芸もないのに25年なのである。
(ここを読んで深くうなずかないように)

なぜここまでロング・セラーでいられるのか、
その秘訣は様々である。
ある時は苦しまぎれのヨイショ、
ある時はモロバレ覚悟の大ボラ、
またある時は(これが一番の秘訣であろう)
次々に出てくるライバルたちを、
笑いながら背後から忍びよって突き落としてきたのだ。

こう告白すると、
人は悪どいだの人非人だのデベソだとの言って非難する
(デベソ以外は根拠のないものだ)だろう。
でも、それはこのマジック界の厳しさを知らない人なのだ。
単なるお人良しがノホホンと生きていけるほど、
マジック界は甘くない。
常に周りを見回して、
新しく出現してきたマジシャンのアラをほじくり出し、
アラがなければ持って行って付けてあげ、
向こうにマジシャン同士の争いがあると聞けば行って
火に油を注ぎ、あちらに悩めるマジシャンあれば行って、
「才能ないよ、ヘタクソだねぇ」
と言って致命傷を与えてきた。
しかもこういう手法だけはまさに右に出る者なき名人芸、
我らの天賦の才というものなのだ。
弱点を嗅ぎだす嗅覚、傷に塩を塗り込む丹念な仕事、
トドメを刺す時のタイミングの鮮やかさ、
どれも他の追随を許さないものだ。

しかしそんな我々の前に、
恐ろしいライバルが出現してしまった・・・。
しかも、よせばいいのに我々と同じ男性ふたりの
マジック・デュオ。
とうとう恐れていたことが現実のものとなって、
我らの前途に立ち塞がってきたのだ。
その恐怖のデュオの名は「Y兄弟」という。

Y兄弟は新進気鋭の若手マジシャンである。
しかも彼らの父親というのが誰あろう、K見S氏なのだ。
プロ・マジシャンK見S氏といえば、
華麗な手技のマジックから
多くの美女ダンサーを従えてのイリュージョンまで
鮮やかにこなしてしまう、
レパートリーの広さを誇る人物。
天才が努力を積み重ねたような、
我らのもっとも苦手とするマジシャンなのだ。

リサイタルを見に行ったことがあるが、
ダンサーたちを抱えてポーズを決められると、
うらやましいのを通り越して怒りを覚えてしまったほど
カッコイイのだった。
それ以来、ことあるごとに
しつこく嫌がらせを繰り返してきた。

だが、彼は怒るどころか
我らの大好きなビールを中元、歳暮として
贈り続けてくれているのだ。
これには参りました、
どうにも贈り物に弱い我らなのであった。
でも、贈り物が途絶えたら今度こそ背後から襲おうと思う。
さてそんな父を見て育ったY兄弟、
どう見てもその才能を余すところなく受け継いでいる
サラブレッドなのだ。
この久しぶりに出現したスター・マジシャンを
マスコミはこぞって取り上げ始めたのは当然であろう。

先日、彼らについてのインタビューを受けた。
某局の朝ワイドである。
「Y兄弟、ウケてますよね!
 どんな感想をお持ちでしょうか? 」
待ってましたとばかりに悪口雑言を並べたて、
プロ生活を断念したくなるような
厳しいコメントを連発した。
が、放送ではその部分が全てカットされている。
しかも悪口の途中で
K見S氏からの中元、歳暮を思い出し、つい
「でも、きっとスター・マジシャンになりますよ、
 あっはっは」
とコメントしたら、なんとそれだけが放送されてしまった。
まさに敵に塩、である。

その数日後、そのY兄弟と
同じステージに上がることになった。
ウシシ今度こそいじめてやろうと爪を研いでいたら、
テレビで放送された我らのコメントが気に入ったらしく、
Y兄弟が我らの楽屋を訪れたではないか。
しかも、とろけるような親しみスマイルで
僕の手を握ったのだ。
う〜む、なんというおおらかなやつら。
結局、我らはY兄弟のゴロニャン作戦に
完敗してしまったのである。

ステージ袖で彼らの演技を研究してみた。
やはり若さゆえのリズミカルでスピーディな進行、
父親ゆずりの決めポーズ、
小憎らしいほど堂々としているではないか。
1回目が終了すると、
さっそく父親であるK見S氏が注文を出している。
「いいか、タネを見せたり明かしたりする
 マジシャンというのは最低なのだ。
 そういうマジシャンは、ちゃんとした芸が出来ないのだ。
 口先だけでゴマかし、
 ネタバラシでしか受けることの出来ない
 あわれなマジシャンなのだ。
 そんなマジシャンにだけは絶対になるなよ」
耳が激しく痛む、息が苦しい。
早くふたりを蹴落とさなければ
我らが先にやられてしまいそうだ。

我らの新しいライバル、Y兄弟。
兄、山上佳之介(やまがみ よしのすけ、7才)、
弟、暁之進(あきのしん、6才)、
世界最年少マジシャンとして申請中。
彼らはとうぶん引退しそうもない。

2002-07-03-WED

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