MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

面白かったり楽しかったり、
仕事のたびに感じることはあるけど、
「至福」となるとなかなか難しいもの。
しかも人それぞれ違う「至福」があるだろうし。
グウタラと言われればおしまいだけれど、
それはそれでトロけそうにシアワセな今回、


「至福の日々」


熱海の某ホテルで10日間のディナー・ショーという
仕事が入った。
夜の9時から1時間を
本館のメイン・ステージでこなした後、
別館のステージに移動して
45分というスケジュールであった。
まぁハードといえばハードな仕事ではあった。
しかし、慣れてくれば毎日同じことを
消化していけばいいだけのこと。
順調に日々が過ぎていくにつれ、
苦はたちまち楽に変化していく。
別館でのステージが終了するともう夜中なのだが、
我々の夕食はそれから始まる。
23時を過ぎると開いている飲食店は限られ、
焼き肉屋さんにするかラーメン屋さんかで
悩むくらいしかない。
以前よく業界の先輩に連れていっていただいた
おかまバーのママが
しょっちゅうぼやいていたのを思い出す。

「あたしたちってさぁ、仕事が終わんのが夜中でしょう。
 だっからさぁ、それからごはんなんていっても
 焼き肉ぅとかラーメンとかじゃん。
 だっから、こんな肥ってんのよ。
 あははははって、ほっといてよん」

肥満の理由はそれだけではなさそうなのだが、
夕食事情は確かにそうだ。
また、地元の方々のお誘いもある。
焼き肉ひとつをとっても、
地元ならではの隠れた名店などというところに
案内してもらうのも度々だ。
「昨日はどこ行ったの? ふんふん、あぁ。
 あそこもいいけどねぇ。
 じゃぁ、今夜はみんながビックリするような焼き肉、
 食わせてあげよう」
いやはや確かに旨い美味い肉また肉、
昨夜も焼き肉を腹一杯だったのに
ペロリペロリと口に運んでしまう。

その翌日、恐ろしいことが起きる。
また別のグルメ氏が登場し、
「昨日はどこ行ったの? ふんふん・・・」
こうなると体質も変わってくるらしい。
なんだか毎夜それくらいのヘビィなものを食べたくなり、
また食べても胃もたれしない。
それどころか食べないとエネルギー不足になりそうだ、
なんて気分になってしまうから不思議なものだ。
「たまにはさぁ、軽くラーメンで・・・」
なんてことを平気で言いつつ、
しっかり餃子も食べてしまう。
その食べっぷりはおかまバーの
チィ・ママくらいにはなれそうな勢い。

昼は昼でしっかり腹が減っている。
いただいたチケットでホテル内のレストランで食い放題。
遅い朝食というのは実に食が進んでしまうものだ。
始めは起きてレストランに行って
昼ごはんをいただいていた。
しかし、そのうちそれすらも面倒に思えてくるから
困ったものだ。
部屋に敷きっぱなしにした布団の中で目が覚める。
しばらくグズグズと寝がえりをうったりする。
仕方なく布団を出て、フラフラと風呂に向かう。
けっこう大きな風呂が部屋にもあり、
チロチロと蛇口からお湯が出ていて、
湯舟は常にお湯が溢れている。
ぬるめのお湯にドボンとつかると、
少しづつ目が覚めてくる。湯舟の中で歯もみがく。
時々ドップンと頭を沈めたりザブンザブンして
頭と身体は洗ったつもりにする。
風呂から出て布団に戻る。
枕もとの電話でアシスタントのNを呼ぶ。
「今日の昼めしだけど、たまにはホカ弁にするから
 どこかで買って部屋に持ってきて」
こうして布団の中でゴロゴロを続ける。
なのに腹はしっかり減らして弁当を待っている。
「お前ねぇ、昨日焼き肉だったろ。
 なんでそれでハンバーグ弁当なんか買ってくるんだよっ」
などと文句言いつつきれいに平らげてしまう。
しかも布団で腹ばいのまま。

ホテル内の売店で購入したモデルガンで、
干してある手ぬぐいを撃つ。
すると温泉にある手ぬぐいの独特の荒らい目に
弾がスッポリと挟まって面白い。
弾は跳ねかえることもなく、貫通もしない。
白い手ぬぐいにポツポツとドットが増えて面白い。
(実は面白くもなんともない)
途中数回、部屋風呂にザブン以外は
仕事の準備ギリギリまで寝ていた。
すると、当たり前だが肥ってきた。
それも昨日より今日どころじゃない、
今朝より今夜、くらいに肥ってきた。
ディナー・ショーも7、8日目になると、
おいおいタキシードのズボンがきつくなってきたぞ。
ジッパーを緩めないと苦しいではないか。
こうして「至福の日々」は
たちまち「脂腹の日々」になったという一席、
ご清聴深謝。

「至福の日々」が過ぎると、
その反動なのかウサギのごとき食事風景になってしまった。
1週間ほどで清貧(?)なる肉体に戻り、
タキシードのズボンにスッポリと収まり今に至っている。
あの「至福の日々」は今だ戻ってこない。

2002-06-19-WED

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