MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

会社に遅刻して、
「宇宙人に捕まってました」

デートに遅れて、
「君と夢ん中でキスしててさ、
 目を覚ましたくなくて、ついつい寝過ごしたよ」

浮気の、その最中に奥さんに踏み込まれて、
「ハッ、ここはどこだ?
 アレッ、俺はなぜハダカなんだ?
 お前、ここでなにしてるんだ」
あくまで催眠術にかけられていることを主張する。
(僕ではないですよ、念のため)実に苦しいけど、
背に腹は代えられない、そんな


「言い訳」


ロシアの超能力者、A。
彼は宇宙エネルギーを体内に充満させ、
そのパワーで11mも跳ぶことができると言う。
そのVTRを見た。
広い会議室のようなところ、天井も高い。
Aは壁に対面して1mほど離れて立っている。
別の男がメジャーを持ち、
Aの足下を起点にして計測を始める。
1mごとにペンでマークを付けていき、
11mのところに大きく丸いマークがされた。
この地点まで、宇宙エネルギーで跳躍できるのだという。
しかも後ろ向きに。
Aから11m後ろに着地用のマットが重ねられ、
すべての準備が完了した。
超能力者Aはこれまで200回以上この実験に望み、
何度も成功させているという。
ヘルメットをかぶり、Aは深呼吸を繰り返し始める。
他の者は微塵も動かず、固唾を飲んで見つめている。
Aの呼吸が少しずつ荒らくなり、身体が揺らぎ始めた。
その瞬間、Aは奇妙なうなり声とともに
大きく「前に」ジャンプしたのだった!
大柄なAの身体が1m前の壁に激突し、
そのままズルズルと床に崩れ落ちた。
なにが起こったのか?
ぼうぜんとしていた人々がハッと我にかえり、
Aを助け起こす。
ヨロヨロと立ち上がったAは、深刻な面持で呟く。

「う〜む、やはりまだ跳ぶ方向のコントロールが
 完全ではないようだ。
 通常なら後ろに跳ぶことができるのに、
 今回は前方向にエネルギーが集中して
 前に跳んでしまった。
 もしこの壁さえなかったら、
 今日の私の調子だと11mを越えられたかもしれない。
 残念だ」

壁にぶつかった時にできたのだろう、
ひたいに血をにじませたAの顔がアップになって
VTRは終わった。
面白い!
実によくできたコントではないか。
あくまでも神妙な前フリ、前へ跳んでしまうというオチ、
コントロール・ミスという見事な言い訳、
ハラショー! ハラショー! 

そんなAが初来日し、
なんとテレビ局のスタジオで跳ぶことになった。
カメラの前で、多くの立ち会い人の前で
跳んでみせるという。
僕はワクワクした。
もちろん跳ぶことにではなく、
跳べないことの言い訳に期待していたのだ。
今回の実験では、
Aの前後左右に障害となる壁などは一切ない。
どちらの方向にも11m以上のスペースがある。
もうコントロール・ミスという言い訳はできない。
ワクワクドキドキのなか、
ヘルメット姿のAが深呼吸を始める。
ここまではVTRで見た通りだ。
15分ほど震えたり
ヘルメットを投げ捨てたりのパフォーマンスの後、
「ニェット」
ダメだ、できないと言いだした。
立ち会い人のひとりがすかさずマイクをつきつける。
「なぜ跳べなかった? 」
Aは小さな声で
「きっと日本の湿気のせいだろう」
と、今回は冴えない言い訳。
おいおい、宇宙エネルギーは湿気に弱いんかい!

アメリカの有名マジシャンBが来日した。
父親が米国マジック界屈指のマジシャンであり、
彼はその名を継いだサラブレッドである。
幸運にも共演できることになった僕たちは、
彼らのリハーサルに立ち会った。
ステージ袖で、
Bが引きつれてきたスタッフと話し込んでいる。
どうやら彼らのマジックには不可欠な音楽テープを、
こともあろうに忘れてきたらしい。
おいおい収録は今夜だよ、どうするんだい、
などと心配していると、Bがプロデューサーに向かって、

「ハ〜イ、ワタシハ イツモ ライブ・オーケストラ、
 ナマ・バンド デ マジック シマ〜ス。
 オーケストラ OK? 」

大物は、つくウソも大きい。 

アメリカで、その不思議な能力を認められたという
日本人Cが念動(手を触れないで物体を動かす、浮かす)
実験をするという。
確かに、Cの手のひらに置いた1万円札が
5cm程浮いている。
しかし、それを見ていたタレントのひとりが、
「あれっ、なんか糸みたいなものが手についてる」
と、遠慮のない意見を述べた。
万事窮す、バレバレ、どうする?
だが、Cは慌てず騒がず
「わたしの超能力によって、手から糸が出ています」
お前はクモかい?

2002-04-25-THU
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