MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

プロ・マジシャンとなって
早くも25年となってしまった。
実にどうも困ったというか、恥ずかしいというか。
色々なことがあったような、な〜んもなかったような。
そんなナポレオンズのある一週間を綴る今回、題して

「ナポの週間日記・PART2」

月曜日
時々、高校(まれに中学校)の
「芸術鑑賞会」という仕事がやってくる。
生徒さんたちに、
落語や奇術などの伝統芸を見てもらうのだ。
今日は栃木県のU学園であった。
開演前に、先生が生徒たちに注意事項を伝える。
「いいか、これから伝統芸を見せてもらう。
 ちゃんとしっかり見るように、騒いだりすんなぁ!
 うるさいと途中でも中止してもらって、
 やり直してもらうぞ!」
いや、むしろ騒ぎつつ見てもらいたいんです。
シ〜ンとしつつ見るもんじゃないし。
しかも伝統芸って訳でもないし。
で、始まってみると会場は大騒ぎ!
う〜む、教育とは難しいもんだ。

火曜日
千葉に行った。
東京駅から成田エクスプレスで空港まで、
そこからタクシーで会場へ。
今日は寄席形式のイベントで、
コントや落語家の皆さんと一緒。
帰りの成田エクスプレス、
車内は大きなカバンを持った外国人ばかりだ。
車掌さんが来て、
「あれ、今日はどこからの帰りですか?
 アメリカ?イギリス? 」
などと言う。つい、
「えぇ、まぁそんなとこです」
などと答えてしまった。
手には興行先でもらった
成田名産の落花生の袋を抱えてたのに。

水曜日
月刊誌のコラムの〆切日がメールで届いた。
いつものように、
「〆切は明後日です」
と明快なご指示。
900字くらいだからサッサと書けなくはないんだけど、
なんだか焦りつつ書く。
メールで依頼がきてメールで原稿を送信、
便利な時代だ。
でも、書いているのはパソコンではなくて
ポケット・ボードというもの。
これだと小さくて軽いので移動中の電車でも
原稿が書けるので重宝している。
もっとも、書くのに集中し過ぎて
駅を乗り過ごすことがしょっちゅうだけど。
以前新幹線で見かけたビジネス・マン、
席に着くやいなやパソコンを開き
何やら資料を山積みにしている。
いかにも仕事が出来そうな雰囲気であった。
数分後に視線を彼に戻すと、すでに爆睡中なのであった。
きっとバリバリ仕事している夢でも見ている?

木曜日
休み。飲み会のお誘いにホイホイと出掛ける。
色々な人たちと出会うのは嬉しい。
「なんか見せてよ」
というリクエストに、
ポケットに入れておいたネタをハイハイと披露する。
「酒の席で酔っ払ってネタやると、芸が汚れるよ」
といつも言っている。
もし見せる場合でも、
断って断って3回目にやっと応じなさい、
と後輩に言っている。
だが、おいらは言われなくてもやったりする。
だいたい、そのつもりでいつもネタを持ち歩いている。
矛盾してる? そう、世界は矛盾に満ちている。

金曜日
事務所で打ち合わせがあり、電車で向かった。
途中の九段下駅でボ〜ッと電車を待っていると、
おばさんが声をかけてきた。
「ねぇ、日本橋ってこっちでいい?
 そこから浅草線に乗換えられるわよね?」
突然聞かれても分からない。
「えぇっと、たぶん反対側のホームだと思いますが」
そう答えると、
「なによっ、たぶんてどういうことなのよっ」
かなり怒ってスタスタと去っていった。
なんのことだ?
いったいおいらのどこが悪いっていうんだ? 
ベンチに座って自問自答していると、
駅員さんが歩いてきた。
その駅員さんのジャケットを見て、
すべての謎が解けた。
おいらが着ていたジャケットが、
駅員さんのものと同じ色だったのだ。
あのおばさんは、
おいらのことを駅員さんと思い込んだのだ。
このお気に入りの緑のジャケット、
買ったばかりのジャケットをオクラ入りさせるのはつらい。
お願いだから営団さんの方で
ユニフォームの色を変更していただけないだろうか?

土曜日
珍しくドラマに出演することになり、浅草に行った。
役柄は「売れっこ漫才師」なのだった。
かっこいい外車で高級料亭に乗りつけるシーン。
さっそうと車から降りて・・・、
ドアの開け方が分からなくて、
いきなりNGになってしまった。

日曜日
たまに依頼される講演の仕事がやってきた。
今回の講演のテーマは
「不思議を学び、遊ぼう」というもの。
固定概念でコリ固まった脳ミソを、
マジックの不思議でリフレッシュさせ、
ついでにマジックを遊んでしまおうというのが目的なのだ。
おしまいに、
「25年間、大した芸もないのにやってこれました。
 とても幸運でした」
「大した芸もない」というところで、
最前列のおばあさんが深くうなづいていた。

2002-04-11-THU
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