MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

予想外のことに慌てふためく、なんてことが
よくあるもんです。
後で考えてみれば、まぁそりゃそうだよ、
そんなこともあるよ、くらいのもんなのに。
いやぁまいったまいったの今回、題して、


「Oh my god ! 」



あるパントマイマーがいる。
彼の仕事場は主に野外、
つまりは大道芸人である。
大変に技術のいる芸であって、
まずは道行く人の耳目を集めなければならない。
そこで彼の考えた手段は、
おもちゃのピストルを撃ちながら
パントマイムを行うというもの。
これはかなりの成功をおさめた。
なんせパントマイムは言葉を不用とするのが常であり、
路上の観客の関心を引くのが大変に困難であった。
ピストルの音は、人々にパントマイマーの存在を知らせる
強力な武器となった。

ある日、僕らは彼と一緒に仕事をすることになった。
ある著名な政治家のパーティに参加し、
大いに盛り上げるのが僕らと彼の役目であった。
まずは彼、パントマイマーがパーティ会場に登場し、
さっそく演技をスタートさせた。
しかし、参加客の関心は著名な政治家を追い掛けてばかり、
誰もパントマイマーの存在に注目しない。
そこでいつもの奥の手である。
ポケットから愛用のおもちゃのピストルを取り出し、
パンパンと撃ちまくった。
その瞬間、
どこからか政治家を取り巻いていたSPたちが現れ、
無邪気なパントマイマーに伸しかかっていった。
声にならない叫びだけが残った。

ショーの中で、観客をステージに上げて
マジックを教えたりする。
いつもハイハイと参加してくれる観客ばかりではない。
企業などのアトラクションなどの場合、
無理矢理に引っ張り上げることになってしまったりする。
ある番組の収録で、アフリカの某国に行った。
大きな広場で我々のマジックを見てもらうことになり、
マジックの道具やカメラ機材を並べ始めた。
なにごとかと人々が集まり、
ショーが始まる頃には
大勢の観客が広場を埋めつくしてしまった。
我々のギャグ・マジックに大爆笑! のつもりであった。
しかし、観客はただ我々をジィ〜ッと見つめているばかり。
こうなりゃ誰かを参加させて盛り上げるしかない、
それならば首剣(観客の首に長い剣を刺し、
完全に貫通させるネタ)がいいだろう。
だが、はたしてこの観客たちが
参加なぞしてくれるのだろうか。
誰も上がってくれなければ、
なんの盛り上がりもなく終了してしまいそうだ。
せっかく、はるかアフリカまで来て、
このまま受けないで帰るわけにはいかないし。
え〜い、こうなりゃヤケだい、

「I need a volunteer ! 」
(誰かお手伝い願います)

頭の中で、更にシ〜ンとする観客たちを思い浮かべた。
すると、なんということだ、
ほとんどの観客たちが押し合いへし合い
前へ出ようとし始めた。
しかも十数人の男たちが先を争って殴り合うではないか!
あまりの光景にパニクった僕は、

「Only one! 」

などと火に油を注いでしまった。
争いは過激さを増し、ある者は倒れ、
ある者は敗れ去っていった。
そして、一人の男が残った。
彼はニッコリと微笑んで、揚々と我々の前に進み出てきた。
見振り手振りで、
早く首に剣を刺すマジックを始めろと言う。
だが、既に顔中血だらけの男の首に剣を刺すなんて
到底出来ないのであった。

フランスのマジシャン、ピエールが来日することになった。
いつもはマジック・ショーのためであったが、
今回は劇団の一員としての来日であるという。
彼とはすでに旧知の仲であった僕は、
花束を持って銀座のとある劇場へと向かった。
ほぼ満席のにぎやかな客席でパンフレットを見るのだが、
サッパリ分からない内容だ。
すぐに場内の照明が落ち、晴れやかな芝居が始まった。
出てこない・・・。
どういう訳だか彼が出てこない。
なんだか分からないままに終演となってしまった。
渡せなかった花束を抱えて、楽屋を訪ねることにした。
居ない、楽屋にも彼の姿が見えない。
呆然としている僕の耳に、
彼、確かにピエールの声が聞こえてきた。

「ハ〜イ、コイ〜シ〜」

美しいドレス姿、
赤い口紅がすごく似合う可愛い「彼」が、
僕に抱きついてキスをした。

2002-03-18-MON
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