MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

NG、ノー・グッド。
皆さんご存知ですよね、
テレビ番組の収録などで
なんらかのミスが発生することです。
業界の仲間で話していると、
色々なNG話を耳にします。
うまくいったことよりも、なぜかしっかり覚えている、

「NGも、時が過ぎれば」


昔むかし、まだテレビ創成期のころのお話です。
当然ながら白黒画面、録画もなかった時代のこと。
番組は全て生中継で、編集も修正もないのでした。
あるドラマのシーン、
臨終間近の父親が臥せっています。
周りを妻や子供たちが囲んでいる。
苦しい息をしながら、父親は口を開きます。
「ハァハァ、お、お前たちに言い遺しておきたいこと、
 遺言にして、ここに」
胸のあたりを探します。
ところが、懐に入れておいたはずの小道具、
遺言書がない・・・。
ここで父親役の俳優はハタと気付く。
「しまった、楽屋に忘れてきた」
現代ならば、
「すいませ〜ん、ちょっとNGです」
で済むのですが、当時はそうはいかない。
数分後には息を引きとるはずの父親が
ムックリと上半身を持ち上げたかと思うと立ち上がり、
ボーゼンとする家族を残してスタスタと歩み去ってしまう。
そして、忘れた遺言を持って引き返しまた布団に臥せる。
「長い間、世話に・・・」
こうして息を引き取るのだが、
周りを囲む家族役の方が笑いをこらえるのに
死ぬ思いをしたという。

録画も編集も当たり前の現代、
収録されたテープは何度もチェックされます。
さてこれはお馴染みの「水戸黄門」でのお話。
助さんが黄門さまにささやきます。
「黄門さま、さすればこのような策は
 いかがでございましょう」
黄門さま、
「う〜む、それはよいアイディアじゃ」
このセリフNGが、
幾度のチェックを通過して放送寸前までいってしまった、
という話を聞いたことがあります。
仮に誰かの作り話だとしても、
いかにもありそうなNG話です。

時代劇でお馴染み、俳優のG・Kさん。
番組のクライマックス、見せ場のシーンがやってきました。
お城の大広間、襲いかかってくる悪人どもを
バッタバッタと切り捨てて、鮮やかに剣を収める。
う〜ん、実に良い出来、表情も満足げです。
普通ならこれで、
「は〜い、大オッケーです」
と声がかかるはず。ところが、
「すいません、もう一度お願いします」
G先生はまるで納得できない。
「おいおい、いったいどこがいけないんだ」
監督は困ったように、
「あのですね、G先生、
 そのオレンジ色の靴下を脱いでもう一度・・・」

マジシャンPが自慢気に言う。
「高かったんだけど、すごくいいんで買っちゃったよ」
30cm四方のカラの箱の前でポンと手を打つと、
アラ不思議ハトが出現する。
実はこの仕掛け、音センサーが内臓されていて、
手を叩くとその音に反応してバネが外れ、
ハトが飛び出すという優れものだったのです。
Pは何度もその仕掛けを試し、
その度に他のマジシャンたちが欲しそうな表情をするのが
嬉しくてたまらないようです。
「さぁて、では本邦初公開といくかぁ」
ステージの中央に、その「音センサー・ボックス」が
うやうやしくセットされます。
スタンバイしているPの名前がアナウンスされます。
「さぁ、拍手でお迎えいたしましょう。
 マジシャン、Pさんです! 」
場内から大拍手が沸き起こりました。
すると音センサーが敏感に忠実に反応して、
ハトが飛び出しました。
音センサーは見事に役目を果たしたのです。
Pは袖に張り付いたまま、その一部始終を見ていました。
観客よりも誰よりも、ハトが出て驚いているのは、
P自身だったのでした。

Mr.マリックのブームのころ、
ある番組に数名のマジシャンと出演しました。
なんせ超能力ブーム、プロデューサーはマジシャンを集めて
番組のコンセプトを説明します。
「ひょっとしたら超能力じゃないの?
 こう観客に思わせたい。
 少なくとも、
 すぐにマジックだと分かってしまうような言動は
 絶対にNGだ。
 番組のタイトルも
 『超能力かマジックか? 見極めるのはあなたです!』
 なので、くれぐれもよろしく」
さぁ収録が始まりました。トップバッターはR。
「始めはトランプのマジックから・・・」
「カット! カット! カットだぁ!」
プロデューサーの罵声は客席にまで響くのでした。

2002-01-28-MON

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