MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

サービス業界はつらいよ

あるホテルマンから聞いた話。
「お客様は常に、全てにおいて正しい。」
もちろん、ホテルマンの心構えを言っているのであって、
客の言うことにはどんな無理難題でもハイハイと従うべし、
ということではない。
お客様に、
「パンツを脱いでベッドに寝てくれ。」
と言われたら、
「お願い、優しくしてね。」
などと応えるのは、
ホテルマンの正しい対応ではない。(当り前だよ)
ちなみに正しい対応は、
「お客様、お先にどうぞ。」(ウソ)

マジシャンの観客に対する心構えにも通ずるようで
印象に残りました。
実際は受けない時は直ちに客のせいにするけど。

若手マジシャンたちが、ライブの打上げの席で
口うるさいマニアから小言を言われている。
先輩諸氏ゆえに反論も出来ず、
ひたすら我慢している。
「まったく頭に来ますよ。
 そんなに言うなら自分でやってみろ、と言いたいっすよ。
 こんな時、どう対応すれば? 」
などと聞かれる時、
このホテルマンの言葉を話します。
しかし現実は厳しく、
ハイハイと頷いても苦言は
更に厳しく苛酷になってしまいます。
再び若手たちは訴えます。
「どうすれば良いんですかっ! 」
仕方ない、最後の手段を教えます。
「千円札を一枚先輩に握らせ、
『これで勘弁してくれよ』と言いなさい。」
僕は一度も試してないけどね。

ある有名レストランのオーナー・ママのぼやき。
「お客様って、誰も我が儘。例外なくね。」
う〜ん、これだけ繁盛している
レストランのオーナー・ママにもそんな苦労があったとは。

「やぁママ、いつものコースで。」
いますよね、2、3回来ただけなのに、
すっかり常連気取りの人って。
とりあえず席に案内するのだけれど、
「いつもの席、空いてないの? 」
やれやれと思う間もなく、
ご婦人ばかりのテーブルから声が掛かります。
「ママ、あのうるさい子供たち、なんとかなんない? 」
確かに、
放し飼いのガキ(失礼)どもがバタバタと。
仕方ない、ちょっと言いましょうねと歩きだすと、
再び常連気取りが呼び止めるのです。
「ご婦人方の香水の臭いでワインも料理も
 味が分かんないよ。
 やっぱりいつもの席、空いてない? 」
店なんか閉めてしまいたい、心底思う夜。

昔むかし、名古屋の大須演芸場に出演した。
客席の最前列に、
ずいぶん大きなカセット・デッキを持ち込んでいる
おじさんがいる。
僕らが登場するとガチャリと録音スィッチを入れた。
しばらくすると、
「あれっ、ちょっと兄ちゃんたち、
 始めからやり直してくれにゃ〜も。
 カセットが巻き戻っとらんかったにゃ〜も。」
おいおい、録音はまずいんじゃないの? 
とは思うけど、なんせお客様の3分の1のご意見
(つまりお客様は3人だった)、
始めからやり直しました。
すると、
「あれっ、止まっとるにゃぁ。
 こりゃぁ、電池がありゃせんにゃ〜も。
 とろくせ〜でにゃ〜も。
 兄ちゃんたち、もういっぺん始めからにゃ〜も。」

ある大学教授の告白、
「静かな観客は思わぬ反撃をする。」
いつものように、先生は聴衆に語りかけます。
観客は高齢のご婦人ばかり、静かに耳を傾けている。
「なんといっても、まぁ男と女を比べれば、
 女性の方が強いですね。
 年を取れば取る程、更に強くなって、
 そりゃぁもう恐ろしいくらい。
 それに比べりゃ男なんて可愛いもんです。
 まぁ、『鬼ばばぁ』という言葉はあっても、
 『鬼じじぃ』とは言わないし、アッハッハ。」
教授のご高説を、
一番前でじっと聞いていたおばあさんが一言、
「クソじじぃ。」

マジシャンが自信たっぷりにトランプを広げ、
観客に示します。
「あやしくないですね? 」
観客はマジシャンを見つめて、
「お前があやしい。」

2001-05-05-SAT

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