MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

第1回
<ライフ イズ マジック >

以前、「さんまのカラクリテレビ」を見ていたら、
飲み会で嫌いなこと、というテーマで
アンケートをとったら、一位はなんと
「マジックを見せられること、驚きを強要されること」
であった。
マジックを仕事としている僕としては、
ガバッと跳ね起きるほどの衝撃の事実でありました。
そうかぁ、これはセクハラならぬマジハラかもねぇ、
などど妙に納得したのでした。

プロ・マジシャンは、全国に200名ほど存在します。
アマチュア愛好家は1万人くらいでしょうか。
マジックもやる宴会課長は、さてどのくらい、
いるのでしょうか。
きっと、いるんですよね、限度を越える方が。

僕の敬愛する、あるアマの方は、
トランプを選ばせて当てるマジックで、
僕が選んだのはスペードだったのに、
「いや、ハートだ、君の記憶違いだっ!」 
ここまで来ると笑えるのだけど。
残念ながら亡くなったエッセイストの江國滋さんも、
トランプ・マジックの名手でしたが、
「ちゃんと食事をご馳走するから、がまんして見て!」
という紳士でした。

ことマジックとなると、「ただもう趣味で少々」
などという奥床しさを保つのが難しいようで。
「マジシャンです」と言うと、
「さぞかし器用なんでしょう」と返ってくるのが常です。
しかし実体は正反対で、
不器用な人ほどマジックにはまる傾向が強いようです。
ちょうど、跳び箱が飛べない子供が、
居残り特訓で跳べた時の恍惚感が忘れられないように、
何度も練習してできたマジックは、
たとえ嫌われたって見せるしか、ないでしょう。
こうして日夜、この瞬間にも、
世界のどこかでマジハラが行なわれているはずです
(世界中に、いったいどれほどの
 マジック愛好家がいることやら)。
一方、見る側の反応の多くは、
「分かんないなぁ、俺って、ひょっとして馬鹿?」
がほとんどです。
これまた、実際は反対かもしれないのです。

マジックの仕掛けのほとんどは、
観客の常識の外にあるのです。
いわゆる「非常識」と思っていただければ。
だから、観客の知的水準とはまるで関係ありません。
もしマジックを見て不思議を感じられるなら、
むしろ喜んでいただきたいのです、マジシャンとしては。

とはいえマジック愛好家の中には
かなりクセのある人物が多いのも事実です。
あるパーティでのことです。そのマジック愛好家は、
パーティの後半までずっと静かで、
いわゆる「壁のシミ」状態でした。
ところが、誰かが
「あなたはマジックが趣味でしたよねぇ」
と声を掛けたのです。
その瞬間、彼のなにかに、突然スイッチが入ったのです。
パーティは終り、まばらになった会場で、
気弱な観客に手品を見せ続ける姿は、
忘れようがありません。
その日から、僕は誓ったのです。
極力「マジックを見せないマジシャン」になろうと。
などと言いながら、ここで最新の面白マジックをひとつ。

まず、電卓を用意して下さい。
始めに、68888889と入れ、+を押します。
次に、12345678を入れます。
電卓の表示は12345678ですよね。
ここで=を押してみて下さい。
電卓の表示が81234567となり、
8が始めに来ているはずです。
この原理は簡単です。足し算しただけですから。

さて、これを見事なマジックにするのです。
68888889,
+12345678とした時点で、
「この中で一番、重い数字は8なんだよ。その証拠にホラ」
などと言いつつ、電卓を右手で持ち、
左を下に傾けるしぐさをします。
その時、相手に分からないように=を押すのです。
すると表示は当然81234567となり、
相手には8だけが左に瞬間移動したように見えるはずです。
簡単でしょ。もし、誰かに見せる場合は
「これは、あのナポレオンズに
教えてもらったんだけど・・・」
のマクラをお忘れなく!「ほぼ日」初参加です。
今後ともよろしくお願いします。

2000-06-12-MON

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