HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
ひとのしあわせを読む仕事。
手相観 日笠雅水さん
第10回 本当はみんな同じだって心から信じてる。でもたぶん、なにかがじゃまをしているんだ。
日笠 いままで本当にいろんな人をたくさん見ていて、
やっぱりすごい人っていうのは印象深いというか、
すごい人はすごいんですよ。だから例えば‥‥
糸井さんは、YMOと同じくらいすごかったの。
ていうか、YMOのとき
手相で調べたみたいなのもあって。
YMOってメンバーを選ぶまでに
1年半か2年かかってるんだけど、
まず細野さんの手相がすごくよかったんですよ。
勢いみたいなものとかいろんなもので。
で、ほかの人、なんかこれだなっていうのが、
‥‥手相だけじゃないですよ、全体の感じとか、
うまいんだけどイマイチなみたいな。
YMOっていうのはもう本当手相的にも、
あのときの幸宏さんと教授の
すーごい、同じ勢いでガーッと来るってのがあって。
正三角形にならないと、
イエローマジックオーケストラの
“マジック”が絶対生きないから、
同じぐらいの力がある人じゃないとっていうので、
この3人決まったときパーッといったし、
どこがすごいか説明せよと言われても
説明できないんだけど、
やっぱり素晴らしかったんですよ。
やっぱりずば抜けて、ものすごかったの。
糸井 とくにそのときっていうことなんですか。
また変わるんですか。
日笠 もちろん変わってきますよ。
それで、糸井さん見たときに
もうびっくらこいたっていうか。
糸井 YMOに入れてくれ!(笑)
日笠 というか、もう全然、やっぱり勢いとか、
これからを作っていくとか、
本当にものすごかったんですよ。
私、すごく褒めたと思うんです、興奮して。
糸井 僕はいつもマーコには褒められてる印象で。
日笠 ものすごくいい手相。
糸井 YMOには入れてもらえないけど‥‥(笑)。
日笠 (笑)でも、当たってきてるじゃないですか。
私のちょっとでもどこかで自信になってるのは、
例えばYMO、例えば糸井さん、
もちろんもともとすごいし、
だれもがすごいとはわかってるけど、
「やっぱりね、ほらね、ほらね、やっぱりね」
って、言えることなんです。
だれも消えてってない。
やっぱりすごいものが出てた人は、
やっぱりすごかったって。
糸井 僕ね、今言われて初めて思ったことなんだけど、
弱いなりにちょっとだけ強いんだよね。
そのちょびっとの使い方が
ものすごくうまいんだと思う。
日笠 あ、そうですね。
糸井 今勝負だ! とかね。
日笠 ずっと見てて、ピッと的を定めて行く感じが
すごく上手でしたよ。
自分がどこでどう発言するかとか、
聞くとこまで聞いておいてとか、
力任せにガーッと行くタイプじゃなかったけど
それはやっぱり上手でした。
ただの計算だけで進む人じゃなくて、
やっぱり見抜いてピッと行く感じ。
だからトランプなんかでも、
ものすごく強いと思うんですよ。
強かったですよね、ゲームなんかやってても。
今だってやっぱり勘ってあるじゃないですか、
トランプでも麻雀でも。
「今来た、来た来た来た」って、
それがすごくわかる人。
で、そういうものを持ってる人の手相というのは、
YMOも糸井さんも、横尾さんなんかも、
やっぱりすごい人はすごい。いっぱいそういう人が
お客さんの中にいるけど、やっぱりそれがわかる人。
「来た」とか「今だ!」っていうのが。
そういう人の手相はやっぱり、
説明はうまくつけられないんだけど、
出てるものがエースなんですよ、トランプでいうと。
 
糸井 それ、何とか自分で
「こういうことなんだろうな」って
わかりたいんだけど、あえて言うと、
僕が今言ってることとか
マーコが僕に見てるものって、
本当はみんな同じなのって信じてるんですよ、
心から。つまり、
「あなたはそうだから言うけど」
ってよく言われたりするんだけど、
本当はみんな同じなのに
何かで邪魔してるんですよ。
つまり、1勝99敗でいいのに、
欲かいて5勝95敗を狙っただけで、
もう何かは変わっちゃうんですよね。
だから99敗の仕方みたいな、
あるいは6勝4敗程度でいいやとかさ、
なんかね‥‥勝とうとしすぎるんだと思うんだよね。
日笠 みんなね。
糸井 そこでズリズリと計算が入ったり、
保障がほしくなったりして‥‥
日笠 自立してないんですよ。
自立してないからブランド品にこだわったり、
大きな組織や、有名な学校に属したくなる。
親の言いつけどおりの生き方していったりするし、
自立ができてる人が少ないんですよね。
糸井さんは最初から
「糸井重里」という職業で生きてきた。
けど、自立できてない人が多すぎるの。
みんな同じなんだろうけど、
どこかやっぱり怖がって。
それで、妙に謙虚で、出る杭は打たれるって
洗脳を受けていて。
糸井 うん‥‥あの時期は生意気だったよね。
日笠 でも、その生意気さがないと
できない時代もあるわけですよね。
糸井 思えばねえ。
知らなかったからなんだろうなと思うね。
日笠 そう。もう私、
人間じゃなかったような気がした、あの当時。
糸井 あなたすら?
日笠 あ、もう、最低、今思うと。
もう本当にイヤになっちゃうって感じでしたよ。
もうこっ恥ずかしい。
ちょっとは、少しはましになったような気がしますよ。
本当にダメダメ野郎だった。
糸井 「世の中甘くないってよく人は言うけど、
 それは舐めてみなきゃわからないじゃないか」
って言ってたんだよ。
「だから舐めてんだよ」って。
平気な顔して言ってましたよ。
「甘かったよ」って。
日笠 (笑)生意気ですねえ。
糸井さんは、ロックですよ。
一番最初会ったときも、
矢沢さんの歌うたってた。
糸井 プッ(笑)。
日笠 糸井さんは、生き方は本当にロックですよ。
糸井 みうらじゅんと同じこと言ってますね。
日笠 私が? あ、そう。ちょっと違う意味での、
かもしれないけど(笑)。
糸井 同じだと思いたくないでしょ?
日笠 いやいや、いやいや、そんな失礼な。
‥‥でも、ロックスターですよ。
糸井 みなしご発想でしょ、つまりロックって。
日笠 うん、そうかもしれないですね。
糸井 「ママ、ママ」って
歌っちゃいけない分野ですよね、多分。
天から降ってきたような
顔しないといけないんですね。
地から湧いて出たでもどっちでもいいんだけど。
日笠 うん‥‥でも、それ、
ママ、ママっていうふうに
清志郎さんは歌えてるし、
糸井さんもそうですよね。
だから、ママ、ママって歌える
そういう作品が作れる
ロックアーティストなんじゃないかな。
糸井 ああ、なんかマネジャーみたいに
なってきたね、だんだん。
日笠 いや、私、マネジャー癖が取れないんですよ。
プロモーター癖と、ね(笑)。
糸井 ときどき、なんかマジな顔して
そんな話してるよね、今。
日笠 たぶん癖なんじゃなくて
身についちゃってるものだから。
糸井 そうだね。それはでも、よかったよ。
生きてるよね。
日笠 ああ、それは。
馬力が少ない分、世渡り上手になってるだろうし、
コバンザメってさっき言っちゃったけど、
素晴らしいものを素晴らしいって伝えたい、
っていうのがあるわけです。
なんかこう、どうして日本人って、
素晴らしいもの、面白いものがあっても、
例えばロックコンサートのあとでも
お芝居見たあとでも、素晴らしいんだから
「素晴らしかった!」って言えばいいのに、
それが言える人が少ない。
知っている人の舞台でも
楽屋で本人に言えなかったり‥‥。
みんなとってもシャイで。
糸井 「あれはどうかな?」みたいな言い方したり?
日笠 「面白かった! 素晴らしかった!
 ここはこうだったね!」って言えばいいのに、
演っている人は、それが知りたいのに
言ってあげる人は少ない。
何事もなかったようにとか変に照れてたりとか。
私は素晴らしいものを見たら、
「素晴らしいー!」って言いたい人間だから。
手相でもそうですよ。
いろんな人、必ずいい部分はあるわけでしょ、
どんな人でも。
そうすると‥‥そう、褒め業。
だから、まず素晴らしいとこを発見すると、
手相でも何でも「すごい!」って。
さっきから糸井さんも、
私に言ってくださるでしょう。
私、ふだん、あまり人に言われないから、
「それはすごいね」って褒めてもらうと、
「私のこんなところがすごいんだ!!」
なんて思ったりできるんです。
私のお客さまもそう思ってくださるんですよね。
だから、褒めさせていただくというのも、
例えばひとつの仕事なのかもしれないですね。
 
(つづきます。)
2007-04-16-MON
Illustrated by 酒井うらら