HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
ひとのしあわせを読む仕事。
手相観 日笠雅水さん
第2回 今も昔も、大勢の乗るバスを楽しませる 学級委員長みたいな仕事をしているんです。
日笠 私、昔、糸井さんに、
「42、3過ぎたら新しい形での
 宗教家になっていそうだ」
というふうに言ったことがあって。
糸井 ああ、「それは困るな」って
俺は言ったよね(笑)。
日笠 宗教そのものではないけれど、
でも、もう、
そうならなきゃいけないっていうか、
何か新しいものを作っていく人になる。
それが“ご隠居生活”であって、
‥‥もちろん今もすでにそういう、
ご隠居さんのようなお仕事ですよね、
ある意味では。
糸井 ああ、うまくいけばね。
ご隠居さんとお母さんを
兼ねてるみたいなとこありますよね。
近所のおばさんというか。
日笠 それは根っからの才能です。
糸井 やめたいんですよ、それ。
日笠 それは無理ですよ、一生。
糸井 そうですかね。
日笠 うん。それは一生、
気がつけば近所のお母さんみたいな──、
それはもう自然にそういうものですよ。
糸井 長生きしないんだったら、しないなりにさ、
「ご隠居」じゃいけないじゃないですか。
なんかちょっともったいないじゃないですか。
日笠 今まであるご隠居っていうのじゃなくて‥‥
糸井 “新”ご隠居。
日笠 そう、新ご隠居が、
できていくんだと思うんです。
それは違う新しい言葉をお作りになって。
赤瀬川さんの“老人力”とはまた違う、
もっとみんなが楽しんで生きられる世界、
楽しみ方のコツみたいなものを‥‥。
糸井さんは、幸せになれた人だから、
こういうお仕事ができてるんですよ。
幸せじゃない人がこんなサイトは作れない。
あんな商品も。
いっぱいいっぱいになっちゃうし、
欲が出ちゃうし。
本当に幸せじゃないと
見えないことっていっぱいあって、
文章ももちろんそうだし、どんなことでも。
いまの糸井さんの仕事は、
幸せになれたからこそできてる仕事です。
糸井 あ、そうか、
いっぱいいっぱいにならなくて
済んでるっていうのは、
もうすでにそこに表れてるわけだね。
 
日笠 もちろんそうでしょうね。
糸井 いっぱいいっぱいになるな、
ってことばっかり言ってるもんね、人にも。
日笠 それは多分、自分もときどき、
いっぱいいっぱいになりそうになったとき、
ご自分でご自分に言ってる言葉なんでしょうね。
糸井 ああ‥‥!
日笠 一度、だからもう
いっぱいいっぱいにならないってわかったし、
「あ、いっけねえ。
 いっぱいいっぱいになりかけちゃってる」
っていうときに、
人に言っちゃったりするのかもしれないですよね。
いっぱいいっぱいの人は
こういうサイトは作れないですよ。
糸井 そうか。
日笠 感情線の先端で観ていくんですけど、
投げやりじゃなくて、
「いいや」と言って様子を見る余裕、
みたいなのがすごくありますよ。
若いときには、例えば人と話をしてても、
プレゼンを通すにしても、
(剣で突くようなしぐさで)
糸井さんにはグーッと行って
ピッというとこがあった。
それもすごく得意だったのかもしれないけど、
そういう意味ではもう
別人みたいな感じがしますね。
糸井 そうだよね。それは自分でも思うね。
別人だね。‥‥べつじん‥‥
日笠 ‥‥(笑)あ、よかった。
「別人28号」とか言うんじゃないかと(笑)。
糸井 いやいや(笑)! 別人感を強調したかったの。
何ていうの、例えば昔から知ってるさ、
みうらじゅんだとかああいうやつに会うとさ、
ああいうやつの中では
昔の僕と今の僕はつながってるんです。
だから、
「今の僕はそうじゃないんだ、違うんだ」って
僕は言いたくてしょうがないんです。
日笠 みうらさんたちは、
“男の子遊び”が楽しいわけで。
糸井さん、みうらさんに会う前は
「無駄な体力使うから」って
書いてらしたじゃないですか。
男の子は無駄な体力を使いたいときだって
あるわけですよ。
糸井 ‥‥なるほどね。
日笠 糸井さんって昔から、学級委員長で、
会社の規模は、
私が最初に行ったとき3人だけだった。
でも、周りの若い人間とか私なんかも
仲間に入れてもらって、
引き連れて一緒に遊んでくださった。
サークル活動を楽しめる感じで。
で、いま、こうして30人ですか、
規模が大きくなっても、
昔やってらっしゃったことと
今やってらっしゃることと、同じなんですよ。
みんなに面倒見よくて、
みんなに楽しいことを提供して、
で、ワッハッハって笑ってて、
自分だけが喜ぶんじゃなくて
周りの人間が喜んでるのを見て。
お母さんがオッホッホっていうのと、同じですよ。
糸井 このあいだ、みうらじゅんに言ったら、
「糸井さんの真似しようと思って
 いろいろやってて、
 自分でソックリだと思ってたら、
 若いやつに
 『糸井さんは先に帰るんです』って言われた」
って。
「『みうらさんはみんなが帰ってからまだいます。
  糸井さんは全部セッティングして、
  大体いつの間にかいなくなるんですよ。
  みうらさんは最後までいる』。
 糸井さん、なんで帰んねん!」って(笑)。
そこが一番違います(笑)。
確かに‥‥性格だと思うんだけど、
俺は帰りたいんだよね。
日笠 うん、そうですよね。そうそう。
糸井 帰って何するわけじゃないんだけどね。
日笠 さっと手をあげて「じゃっ!」って退席、
糸井さん、多いですよね。
糸井 そうそうそう。「じゃっ!」みたいな。
‥‥「じゃっ!」も無しみたいなね。
日笠 うん、こっそり帰っちゃうかも。
糸井 大体、消えるんですよね。
日笠 今も昔も、同じことなさってますよ。
糸井 そうか。そうですね。
日笠 だから、楽しいんですよ。
楽しい学級委員長がいる
遠足のバスの中っていうのは、
楽しいでしょう。
だれが学級委員長かってことで
もうバスの中、大違いじゃないですか。
糸井さんはそういうタイプです。
いま、「ほぼ日」で
何十万人の乗るバスみたいなのを
面白がらせているわけですよ。
糸井 マジカル・ミステリー・ツアーだ(笑)。
日笠 そうそう。
糸井 だって、僕、最近、
「社員を飽きさせないことだけが僕の仕事です」
って公言してるもん。
日笠 あと、社員を面白がってあげられる
才能があるじゃないですか。
どんな人でも面白がってあげられる
才能っていうのは、
私、学ばせてもらってるとこ多いですよ。
糸井 あ、そうですか!
 
日笠 うん。あれはわりと近くに
いさせていただいたときに学べたことですね。
「こういう見方もある」って。
あれイヤだなとかって言いながらでも、
その人が実際来たり対談とかなさってると、
すごく面白い部分を出してあげて、
その人を面白い人間に変える。
人を面白がってあげることができるのは、
すごい才能なんですよ。
糸井 自分が退屈だからだよ?
日笠 そうですよね、そうそう。
そうしないと、面白くしないと、
自分がつらいからなんですよね。
糸井 面白くなかったら、その人の物語、
読んでらんないもんね。
日笠 うん、そうそう(笑)。
本当に幸せなんです、糸井さんは。
 
(つづきます。)
2007-04-04-WED
Illustrated by 酒井うらら