満を持して禁煙を語る編

第2回 どんな言い訳も、黒幕がいる。


[永田]
うわ。

[糸井]
ほんとは甘えだと思う。
泣いてるのもそうだし、机叩くのも、メールが返らないのも、ものすごく厳密に言うと、甘えですよね。

[永田]
ああー。

[糸井]
つまり、そうやって甘えれば吸えるようになるぞってニコチンがささやいてるんですよ。



[永田]
ああー、そうですね、うん。

[糸井]
苦しんでるときにはわからないけどね、ぜんぶ、それですよ。
どんな言い訳も、黒幕がいるんですよ。
中毒っていう黒幕が糸を引いてるんです。

[永田]
そうですね。
だから、その黒幕が持ち出してくる、いちばんの言い訳が
「それじゃ、仕事になんないぞ?」
っていうやつで。

[糸井]
そういうことだよね。

[永田]
それも、直接仕事になんないだけじゃなくて、
「みんなに迷惑かけるぞ?」
「ひいては、家族にも影響するぞ?」
みたいなことを考えさせるんですよね。

[糸井]
そうそうそう。

[永田]
でも、そこで重要なのは、ずっと仕事になんないわけじゃないというか、
「そもそもの能力が損なわれるわけじゃない」
ということだと思うんです。
一時的に混乱して仕事がうまく進まなくなることと根本から仕事ができない人になってしまうことは違いますからね。
だから、吸わない状態に慣れたら、違う習慣で、本来の仕事をするようになるというだけで、その意味では「仕事になんないぞ」っていうのはちょっと間違った言い訳なんですよね。

[糸井]
そう間違うように、ニコチンが仕向けてるんですよ。
もう、まっすぐ訴えたり、回り道させたり、いろんなやり方でそそのかすんだ。
「こんなにもつらいんだよ」
っていう表現を、傀儡のオレにさせるわけ。

[永田]
「傀儡」(笑)。



[糸井]
つまり、どのくらいやめられないかって話だとか、どのくらいつらいかって話は、ぜんぶ、タバコ中毒、ニコチン中毒という黒幕がやらせるんですよ。

[永田]
うん、うん。

[糸井]
だから、やめられないっていうのは、意志の強さの問題というよりも、ちゃんと決めてないんですよ、やめるって。

[永田]
ああーーー、自分が。
そこにつけ込まれてるという。

[糸井]
そう。
決めたっていっても、決めてないポイントみたいなものがあちこちに残ってる。
そりゃ、黒幕にとっては、狙いどころですよ。
なにしろ、永田くんに
「火花がパチパチする夢」を見せたりするようなやつだからさ。

[永田]
はい(笑)。

[糸井]
もう、あの手この手ですよ。
こうだろ、こうだろ、って、やりますよ。
いろんな言い訳をどこまでも言わせます。

[永田]
そうですね。
体が言わせてるから、自家受精みたいな言い訳がどんどんどんどん湧いて出る。
で、脳が、どこかで、言い訳する自分に対してOKを出すと、吸わざるを得ないことになりますよね。

[糸井]
もう、見事な仕組みですよね。
それはね、あれがそうらしいですよね。
覚せい剤とかの中毒も。

[永田]
ああー。

[糸井]
池谷(裕二)さんの話にもあったけど、脳は体が要求することで理解するからね。
ほんとに危ないから摂取したほうがいいぞ、みたいな、とんちをどんどん使うんだ。
で、禁断症状になってるときは、そのへんの区別がなかなかできない。



[永田]
うん、うん。

[糸井]
涙が出ちゃうなんていうのも、そういうぐちゃぐちゃな状態だっていうことで。

[永田]
受け止めきれてないというか、ぐちゃぐちゃですよね。

[糸井]
ぐちゃぐちゃですね。
やっぱり、中毒ってすごいですよね。
あの、うちのかみさんが、あちこちで笑い話として言ってる
「ブイヨンを飼いたくて、 でも、家の都合でそれを あきらめなきゃいけないってなったとき、 糸井は泣いたんですよ」
っていう話があるでしょ?
あれは、禁煙の時期と重なってるんだよ。

[永田]
あーー、そうだ、そうだ。

[糸井]
そもそも禁煙で情緒不安定になってて、そこで犬をあきらめなきゃなんない、っていうシチュエーションだったからね。
だから、別の言い方をすると、あのぐしゃぐしゃな状況を犬が救ってくれたともいえるんです。

[永田]
なるほど、なるほど。
その、不安定な状況で拠り所となって。

[糸井]
それも、いまにして思えば、ですけどね。
だから、やっぱり、すごいもんだよね、中毒ってね。

[永田]
そうですねぇ。

[糸井]
もっというとね、
「いまはまだやめる気がないんです」
みたいな言い方もね、黒幕に言わされてる可能性がある。
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