第13回 夢を見るロボットと、脳を大きくしすぎた人間。

「逃げなさい」と脳幹が大脳皮質に指令を送るわけです。
ところが、進化の過程で大脳皮質がどんどん拡大していきました。
それが、哺乳類です。
そこにクリティカルポイントがやってきました。
大脳皮質がどんどん大きくなって、大きくなりすぎちゃうと、大脳皮質のニューロンの数が脳幹のニューロンより圧倒的に多くなってきます。
そうすると、大脳皮質のほうが、権力を持っちゃうんです。
関係性が逆転する。
大脳皮質から、脳幹に命令が行く。



これが起こっちゃったのが人間なんです。
これは、人間しか起こっていないことです。

[糸井]
この説明は、ひじょうにわかりやすいですね。
これが、人間というものなんですか‥‥!

[池谷]
だから人間は理詰めになっちゃうし、あるいは、ときに無意識が勝ったときに大脳皮質としてどう説明していいかわからなくなるんです。



[糸井]
だから人間は、国のために死ねることになる。

[池谷]
そうです。これが起こっているのは人間だけです。
サルはまだ、脳幹が命令を出しているからこんなことはありません。
ネアンデルタール人はおそらく言葉を持っていなかったと思うんですがこのあたりは微妙な臨界点だったんじゃないでしょうか。
突き抜けなさそうで、でも、突き抜けそうで、ちょうどバランスがよかったんでしょうね。
いちばん幸せだったのかもしれません。

[糸井]
中沢新一さんが言っているアルタミラの洞窟の話を思い出します。
洞窟に壁画を描いた人は、職業的な絵を描く人だったかどうかもわからない。
けれども、その描写が持っているものの豊かさはすごいという話。



[池谷]
中沢先生は、あの頃に人類のすばらしさの頂点を迎えたとおっしゃっていましたね。

[糸井]
大脳皮質に上位を取らせたのは、言語体系ですよね?
言語体系というものが自分を阻害するほどの力を持っちゃった。

[池谷]
はい。言語体系に頼りすぎちゃって、脳幹が大脳皮質をコントロールしきれなくなった、いわば、悲しさがあると思います。
ある意味で悲劇です。

[糸井]
いま、内臓感覚を大切にしたくなってる感じが僕にも、みんなにもきっとあります。
脳幹と大脳皮質の戦争のせいで、有利になったのは、いまの人間だけ。

[池谷]
そうです。
合理化や効率化、論理化で説明しようというのは大脳皮質のほうで、脳幹は無意識、つまり、直感やセンスのほうです。

[糸井]
近代的知性が、ある意味生命の敵になることもある。
これは冗談じゃないよ、と思っても、まちがいじゃないかもしれない。
この簡単な図はものすごくわかりやすいですね。

[池谷]
人間の大脳皮質は、ちょっとニューロン多過ぎですね。
一説によれば140億もあるといいますから。

[糸井]
そのうちのほとんどは使われなくても、豊かだったかもしれないですね。
「必要に迫られて」大きくなったんだと思うけど、もしかしたら必要じゃなかったかもしれない。

[池谷]
大脳皮質を大きくしていったほうが有利だったことは確かだと思います。
しかし、大きすぎてしまったときのことを予期しなかったわけです。
逆転現象という相転移。
こうした予想外のことが起こってしまったんですね。

[糸井]
だからこうやって、眠りについても悩んじゃったりしてさ。

[池谷]
そうですね。
研究も、したりして(笑)。

[糸井]
ははは。
いやぁ、いつもながら最新の情報を混ぜ込んでこんなにもおもしろくわかりやすくお話しくださって、ありがとうございました。

[池谷]
こちらこそ。

[糸井]
また、近いうちにお会いしたいです。
ありがとうございました。



(おしまい)

これで、池谷裕二さんと糸井重里の睡眠についての話はおしまいです。
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