[黒柳]
まえだまえだっていう、漫才やる子どもたち、いるでしょ。
お兄ちゃんは小学5年生、弟は小学3年生。

[糸井]
すっごい笑ってる子ね、下の子が。

[黒柳]
「徹子の部屋」に出てくれたんですけど、かわいかったですよ。
存在そのものが勢いにあふれてて、まぁ、その子たちも歯が抜けてたんだけどね。



[観客]
(笑)

[黒柳]
「歯どうしたの?」
「抜けてん」
「あたらしい歯が、まだ、生えてきぃへんねん」

[糸井]
うん、うん(笑)。

[黒柳]
「なんの授業が好き?」
「給食!」(笑)
「給食は何がお好きなの?」
「魚のホイル焼き」

[糸井]
いいねぇ。

[黒柳]
弟のほうが
「でもな、となりの席に来る子がな、 好きやと思う子が来るときは、 その期間がわりと短くて、 そんなに好きやない子が来るときは長いねん」
って言うのよ。
「ああ、そうなの、 そういうときさぁ、 なんて人生だ、って思わない?」
と、わたし、言ったんです。

[糸井]
ほお。

[黒柳]
そしたらね、「思わへん!」って言うのよ。
「またいいこともあるやろ、それにな、 人生なんてもんはな、もっと遠ーい遠い、 離れたことや」



[観客]
(笑)

[糸井]
すげぇ。

[黒柳]
「またいいこともあるやろ」と言ってました。

[糸井]
いいなぁ。

[黒柳]
そこでね、ふと思ってこう訊いたの。
「あなたたちのお母さんって、どんな人?」
そうしたら、彼らはこう答えました。
「ここが“普通のお母さん” っていう線があるやろ!」

[糸井]
はい。

[黒柳]
「うちのお母ちゃんは、 その線のとぉおおーり、の人や」



[糸井]
へぇえ!

[黒柳]
その表現力には、驚きました。
すごいもんでしょう?
多分、ステージママとかじゃない、普通のお母さん、という事だと思います。
そして、番組の最後に、ふたりにおみやげを用意してたんです。
カブトムシのヘラクレスってやつ。

[糸井]
うん。
ヘラクレスオオカブト。

[黒柳]
カブトムシが好きだと聞いていましたので、担当のスタッフが
「プレゼントはヘラクレスですから」
と用意してました。
それで、わたしはスタジオに置くメモに、
「おみやげヘラクレス」と書いておきました。タテ書きの、くずし字です。
ゲストの方が受賞した賞とか、舞台の名前とか本番中に間違えないように書いておくメモです。
だけど、大人でも読めないくらいの字ですよ。
「料理屋さんのメニューみたいですね」
とよく言われる、そのくらいの字です。
で、番組の最後に、
「おみやげにカブトムシあげます」
と言ったら、
「やっぱり、そやった!」
って言うのよ。
「そこんとこに書いてあったやろ」

[観客]
(笑)

[黒柳]
その子たちの座ってる位置からはぜんぜん見えないような場所にあるメモなのにね。
しかも、一度もそっちなんて見てなかったのよ。
「おみやげヘラクレスって書いてあったやろ!
 けど、それを信じて もらえなかったら悲しいさかいに、 信じないでおこうと思った」

[糸井]
うん(笑)。

[黒柳]
子どもって、ほんとに自分の見たいもんだけ見えるんだなぁって、感心しました。

[観客]
(笑)

[黒柳]
いらないものは見ない。
見たいもんだけ見る。
前歯が抜けていながら、
「人生なんか遠いもんや」
と言い切る、そういう感覚。

[糸井]
うん。

[黒柳]
子どもってこういうんだって思って、わたしすごく感動しちゃったんです。
大人よりも、もっと大人。
本質を見抜く力は、子どものほうがはっきりしてますね。

[糸井]
「徹子の部屋」はかえって大人のほうが難しい、というケースもありそうですね。

[黒柳]
ええ。その方が有名な俳優や歌手でいらっしゃるのに、
「徹子の部屋」にお出になったばっかりにみなさんから
「あれ?」「この人、こんな人なの?」
と思われちゃったら、それはわたしの責任です。
だからなんとかして、すばらしくして、お帰ししなきゃなんないと、思うんですけど、あんがいに‥‥

[糸井]
はい。

[黒柳]
どういうことなんだか、わたしもわからないんですよ。
会話慣れしてないということもないし、わたしに慣れてないというわけでもないと思うんですが、あんまり、ものを思ったり観察したりすることに関してよろこびを感じないという方が世の中にはいらっしゃるんですね。

[糸井]
そうか‥‥。
つづきを読む

前へ 次へ
目次へ    
友だちに教える
感想を送る
ほぼ日のTOPへ